神戸地方裁判所 平成9年(行ウ)23号 判決 2000年10月31日
主文
一1 被告A及び同Bは、連帯して、兵庫県に対し、金八三七円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告A及び同Cは、連帯して、兵庫県に対し、金八三七円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告Aは、兵庫県に対し、金一六七六円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 請求の趣旨第一項に係る請求(平成八年三月五日「あさの」における会食に係る支出に関する諸求)のうち、被告A、同B及び同Cに対するその余の請求並びに被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
二 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第二項に係る各請求(平成八年三月五日「豊福」花隈店における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
三1 被告A及び同Gは、連帯して、兵庫県に対し、金四三三四円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告Aは、兵庫県に対し、金八六七〇円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 請求の趣旨第三項に係る請求(平成八年三月六日「琴」における会食に係る請求(平成八年三月六日「琴」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告A及び同Gに対するその余の請求並びに被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
四1 被告A、同H及びIは、連帯して、兵庫県に対し、金一万九六〇〇円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 請求の趣旨第四項に係る請求(平成八年三月六日「佐和」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
五 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第五項に係る各請求(平成八年三月一一日「あさの」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
六 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第六項に係る各請求(平成八年三月一三日「豊福花隈店」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
七 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第七項に係る各請求(平成八年三月一三日「富久喜」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
八 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第八項に係る各請求(平成八年三月一三日「あさの」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
九 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第九項に係る各請求(平成八年三月一四日「スナック阿紀」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
一〇 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第一〇項に係る各請求(平成八年三月一八日「小屋敷さつき」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
一一1 被告A及び同Kは、連帯して、兵庫県に対し、金四〇二〇円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告A及び同Jは、連帯して、兵庫県に対し、金四〇二〇円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告A及び同Lは、連帯して、兵庫県に対し、金四〇二〇円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告Aは、兵庫県に対し、金八〇四二円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 請求の趣旨第一一項に係る請求(平成八年三月一八日「金春」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告A、同K、同J及び同Lに対するその余の請求並びに被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
一二1 被告A及び同Mは、連帯して、兵庫県に対し、金五五二円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告A及び同Nは、連帯して、兵庫県に対し、金五五二円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告Aは、兵庫県に対し、金三三一六円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 請求の趣旨第一二項に係る請求(平成八年三月二一日「棲外楼」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告A、同M及び同Nに対するその余の請求並びに被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
一三 被告D、同E、同F、同A及び同Oに対する請求の趣旨第一三項に係る各請求(平成八年三月二一日「エクシブ淡路島」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
一四1 被告A及び同Pは、連帯して、兵庫県に対し、金一一五一円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告A及び同Qは、連帯して、兵庫県に対し、金一一五一円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告Aは、兵庫県に対し、金四六〇六円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 請求の趣旨第一四項に係る請求(平成八年三月二一日「富久喜」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告A、同P及び同Qに対するその余の請求並びに被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
一五1 被告A及び同Gは、連帯して、兵庫県に対し、金二八二四円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告A及びIは、連帯して、兵庫県に対し、金二八二四円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告Aは、兵庫県に対し、金五六五〇円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 請求の趣旨第一五項に係る請求(平成八年三月二一日「あさの」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告A、同G及びIに対するその余の請求並びに被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
一六1 被告A及び同Kは、連帯して、兵庫県に対し、金四八九二円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告A及び同Lは、連帯して、兵庫県に対し、金四八九二円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告A及び同Rは、連帯して、兵庫県に対し、金四八九二円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告A及びSは、連帯して、兵庫県に対し、金四八九二円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被告Aは、兵庫県に対し、金一万四六八〇円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 請求の趣旨第一六項に係る請求(平成八年三月二一日「豊福花隈店」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告A、同K、同L、同R及びSに対するその余の請求並びに被告D、同E、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
一七 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第一七項に係る各請求(平成八年三月二一日「きむら」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
一八 被告D、同E、同F及び同Aに対する請求の趣旨第一八項に係る各請求(平成八年三月二二日「小屋敷さつき」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
一九1 被告A及び同Tは、連帯して、兵庫県に対し、金一一〇三円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告Aは、兵庫県に対し、金四四一六円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 請求の趣旨第一九項に係る請求(平成八年三月二五日「大東閣」における会食に係る支出に関する請求)のうち、被告A及び同Tに対するその余の請求並びに被告D、同今井和宰、同Fに対する各請求をいずれも棄却する。
二〇 被告D、同E、同F、同A、同J、同L、S及びUに対する請求の趣旨第二〇項に係る各請求(平成八年三月二八日「豊福花隈店」における会食に係る支出に関する請求)をいずれも棄却する。
二一 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告A、同B、同C、同G、同H、I、同K、同J、同L、同M、同N、同P、同Q、同R、S及び同Tの負担とする。
事実及び理由
第一請求の趣旨
一 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(5)B及び同(6)Cは、連帯して、兵庫県に対し、金三万五三五〇円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金一〇万七三四六円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A及び同(7)Gは、連帯して、兵庫県に対し、金三万一〇〇四円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(8)H及び同(9)Iは、連帯して、兵庫県に対し、金一万九六〇〇円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金四万三二四八円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金三万五六一六円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金六万九〇〇六円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金七万八五四六円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
九 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金二万〇八〇〇円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一〇 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金三万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一一 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(10)K、同(11)J及び同(12)Lは、連帯して、兵庫県に対し、金六万〇一〇二円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一二 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(13)M及び同(14)Nは、連帯して、兵庫県に対し、金六万八四二〇円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一三 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A及び同(15)Oは、連帯して、兵庫県に対し、金六万四二四一円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一四 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(16)P及び同(17)Qは、連帯して、兵庫県に対し、金五万四九〇八円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一五 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(7)G及び同(9)Iは、連帯して、兵庫県に対し、金三万五二九八円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一六 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(10)K、同(12)L、同(18)R及び同(19)Sは、連帯して、兵庫県に対し、金九万〇二四八円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一七 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金五万三五三〇円及びこれに対する平成八年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一八 被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aは、連帯して、兵庫県に対し、金三万六四〇〇円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一九 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A及び同(20)Tは、連帯して、兵庫県に対し、金三万五五一九円及びこれに対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二〇 被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(11)J、同(12)L、同(19)S及び同(20)Uは、連帯して、兵庫県に対し、金五万〇九八五円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、兵庫県の住民である原告らが、別表1記載の各会食(以下「本件各会食」という。)に係る各公金(食糧費)支出(飲食代金等相当額の支出。以下「本件各支出」という。)は違法であり、兵庫県は本件各支出の合計額と同額の損害を被ったと主張して、被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aに対しては本件各支出すべてにつき、地方自治法二四二条の二第一項四号前段又は後段に基づき損害の賠償を、右被告(1)D、同(2)E、同(3)F及び同(4)Aの四名を除くその余の一七名の被告に対しては本件各支出のうちそれぞれ参加した会食に係る公金支出につき、同号後段に基づき損害の賠償ないし不当利得の返還を、兵庫県に代位して求める住民訴訟である。
二 争いのない事実等(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも兵庫県に住所を有する者である。
(二) 被告ら(以下、各被告を「被告(1)」などと表示する場合もある。)は、本件各会食の行われた平成八年三月ないし本件各支出がなされた同年五月当時、兵庫県において、それぞれ左記の役職に就いていた。
(1) 被告 D 兵庫県知事
(2) 被告 E 兵庫県副知事(土木部所管)
(3) 被告 F 兵庫県出納長
(4) 被告 A 兵庫県土木部総務副課長(但し、平成八年四月一日からの役職)
(5) 被告 B 兵庫県土木部道路建設副課長(明石海峡大橋担当)
(6) 被告 C 兵庫県土木部道路建設副課長(高速道路担当)
(7) 被告 G 兵庫県土木部港湾課長補佐
(8) 被告 H 兵庫県土木部港湾課長
(9) 被告 I 兵庫県土木部港湾副課長
(10)被告 K 兵庫県土木部参事兼空港整備課長(但し、会食当時の役職は兵庫県土木部空港整備課長)
(11)被告 J 兵庫県土木部空港整備副課長
(12)被告 L 兵庫県土木部空港整備課長補佐
(13)被告 M 兵庫県土木部交通政策副室長
(14)被告 N 兵庫県土木部交通政策室課長補佐
(15)被告 O 兵庫県土木部道路建設課参事(高速道路室長)
(16)被告 P 兵庫県土木部砂防課長補佐
(17)被告 Q 兵庫県土木部砂防課長補佐
(18)被告 R 兵庫県土木部次長
(19)被告 S 兵庫県土木部空港整備副課長
(20)被告 T 兵庫県土木部道路建設課参事(山陽自動車道[三木・小野]・西神自動車道担当)
(21)被告 U 兵庫県土木部空港整備課長補佐
2 本件各支出
兵庫県は、別表1の各番号欄記載のとおりの「利用日」・「利用店名・住所」欄記載の年月日・場所における「出席者」欄記載の出席者による会食(以下、「番号1の会食」「番号2の会食」…のように表示する。)について、「支払日」欄記載の日に「支払金額」欄記載の金額の飲食代金等の支払をした(本件各支出。以下、個別的には「番号1の支出」「番号2の支出」…のように表示する。)。
右飲食代金等の内訳は、別表2記載のとおりである(甲一の4、二の4、三の5、四の3、五の3、六の2、七の4、八の3・4、九の4、一〇の4、乙二の2、三の2~4、四の2、五の2、六の2、七の3、八の2、九の3)。
3 専決
(一) 本件各支出に係る支出負担行為及び支出命令については、決裁規程(昭和四二年兵庫県訓令甲第一七号。乙一三)に基づき、兵庫県土木部総務副課長に代理決裁(専決者に代わってする決裁)権限があらかじめ与えられていた。
本件各支出の支出負担行為・支出命令については、右代理決裁権限に基づき、兵庫県土木部総務副課長の職にあったV(平成八年三月三一日以前について)又は被告(4)A(平成八年四月一日以降について)が、決裁した。
(二) 本件各支出に係る支出命令の確認は、出納事務局決裁規程(昭和四二年兵庫県訓令甲第一八号。乙一五)に基づき、出納事務局会計課係長に専決権限があらかじめ与えられていたため、いずれもその職にあったWにより決裁されている。
4 本件各会食への各被告の参加状況は、以下のとおりである。
会食 被告
1……………………………(5) (6)
3……………………………(7)
4……………………………(8) (9)
11…………………………(10) (11) (12)
12…………………………(13) (14)
13…………………………(15)
14…………………………(16) (17)
15…………………………(7) (9)
16…………………………(10) (12) (18) (19)
19…………………………(20)
20…………………………(11) (12) (19) (21)
5 監査請求及び一部の会食に係る支出金額相当額の返還
(一) 原告らは、平成九年三月一四日から同年四月七日までの間に、本件各支出につき、兵庫県監査委員に対し、地方自治法二四二条一項に基づく監査請求をしたところ(具体的には、「支出手続担当者及び飲食者らは、上記違法・不当な公金の支出により兵庫県が被った損害を賠償する責任がある。」などと主張して、「飲食者及び支出手続担当者に対し、違法・不当に支出された食糧費を兵庫県に返還させること」などを求めるものである[乙一]。)、同監査委員は、同年五月一三日、原告らに対し、原告らの監査請求を棄却する旨の通知を発し、同通知は同月一四日(弁論の全趣旨)原告らに送達された。
(二) なお、被告(4)Aは、兵庫県に対し、番号2、5、6、7、8、9、10、13、17及び18の各会食に係る支出に相当する金額及び右各金額に対する各支出日から返還日までの利息(年利五パーセント)相当額につき、平成九年四月二二日に返還申出をし、同月二三日に当該支出金額相当額計五四万四七三三円及び利息相当額計二万四七二一円の合計五六万九四五四円を支払った(乙一一の1~4)。
三 争点
1 兵庫県副知事の職にあった被告(2)に対する地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づく訴えは適法か(被告(2)は「当該職員」に当たるか。)。また、同号後段に基づく訴えは適法か。
2 被告(5)ないし被告(21)に対する地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく訴えは適法か。
(一) 被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは監査請求を経たということができるか。
(二) 「当該職員」に該当しない職員の職務行為を理由とする住民訴訟は適法か。
(三) 被告(5)ないし被告(21)は「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に該当するか。
3 本件各支出について、各被告は損害賠償ないし不当利得返還の責任を負うか。
第三争点に関する当事者の主張
一 争点1(兵庫県副知事の職にあった被告(2)に対する地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づく訴えは適法か[被告(2)は「当該職員」に当たるか。]。また、同号後段に基づく訴えは適法か)について
(原告らの主張)
1 兵庫県副知事の職にあった被告(2)は「当該職員」に当たり、同被告に対する地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づく訴えは適法である。
住民訴訟の対象となる財務会計上の行為や怠る事実が違法となるのは、当該行為自体が直接法令に違反する場合だけではなく、「その原因となる行為が法令に違反し許されない場合の財務会計上の行為もまた、違法となる」(最高裁昭和六〇年九月一二日判決・判時一一七一号六三頁)のであり、先行行為が財務会計上の行為でなくとも先行行為の違法性が後行の財務会計上の行為の違法事由となることが認められている。先行行為が非財務会計上の行為であり、先行行為者と後行行為者とが別人である場合に、「当該職員」の意義を被告ら主張のように狭く解すると、「当該職員」を後行行為者に限ることになってしまう。そうすると、先行行為が違法である場合にまで住民訴訟を認めた意味がなくなってしまう。したがって、地方自治法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」とは、公金支出の直接の原因となる行為をなした者であって、公金支出の必要性につき実質的に判断する行為をなした者や当該公金支出の権限を有する職員を財務会計手続とは別の観点から指揮監督する行為のような公金支出に密接に関連する行為を行った職員も含まれると解すべきである。
被告(2)は、土木部所管の副知事であり、補助職員たる被告(4)を直接指揮監督する立場にあり、被告(4)が違法な支出をなすことを阻止すべき指揮監督上の義務を負う者であるから、「当該職員」に当たる。
2 地方自治法二四二条の二第一項四号によるいわゆる代位請求訴訟は、地方公共団体が、職員又は違法な行為若しくは怠る事実の相手方に対し、実体法上同号所定の請求権を有するにもかかわらず、これを積極的に行使しようとしない場合に、住民が地方公共団体に代位して右請求権に基づいて提起するものである。右のような代位請求訴訟の構造にかんがみれば、右訴訟の被告適格を有する者は右訴訟の原告により訴訟の目的である地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務があると主張されている者であると解するのが相当である(最高裁昭和五三年六月二三日判決・判時八九七号五四頁)。
被告(2)は、補助職員がした財務会計上の違法行為により兵庫県が被った損害につき賠償責任を負う地位にあるから、仮に「当該職員」に該当せず地方自治法二四二条の二第一項四号前段の被告適格を有しないとしても、少なくとも同号後段請求の被告適格は認められる。
(被告(2)の主張)
1 被告(2)は、本件各支出との関係では、地方自治法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に該当しないから、同被告に対する同号前段に基づく訴えは不適法として却下されるべきである。
(一) 地方自治法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し、その反面およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当せず、そのような者を被告とする訴えは住民訴訟の類型に該当しない不適法な訴えである(最高裁昭和六二年四月一〇日判決・民集四一巻三号二三九頁)。
そして、右の財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する普通地方公共団体の長等から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者としての「当該職員」には、当該普通地方公共団体の内部において、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、当該財務会計上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使について意思決定を行うとされている者も含まれるものと解するのが相当である(最高裁平成三年一二月二〇日判決・判時一四一一号二七頁)。
(二) 兵庫県土木部における支出負担行為及び支出命令の権限については、決裁規程(昭和四二年兵庫県訓令甲第一七号)九条三項八号シ及びスの規定に基づき、土木部総務課長の専決権限とされ、更に決裁規程一四条一項の規定に基づき同課長があらかじめ指定した事項については、同副課長が代理決裁をすることができるものとされている(乙一三、一四)。
本件各支出に係る支出負担行為及び支出命令については、右の規定に基づき土木部総務副課長の職にある者に代理決裁権限が与えられており、被告(4)(土木部総務副課長)及びこれらの行為を行う権限を法令上本来的に有する被告(1)(兵庫県知事)並びに右支出命令を確認し、支出する権限を法令上本来的に有する被告(3)(出納長)はともかくとして、本件訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為が行われた当時兵庫県副知事であった被告(2)は、本件財務会計上の行為を行う権限を有していないのであり、地方自治法第二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」に該当しない。
(三) 副知事は、普通地方公共団体の長を補佐し、その補助機関たる職員の担任する事務を監督し、長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、当然に又は一定の順序によりその職務を代理する権限を有するものである(地方自治法一六七条、一五二条)。
しかし、副知事は財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有しておらず、被告(2)は、知事から財務会計上の行為を行う権限の委任を受けるなどしてその権限を有していたということもなく、また、本件財務会計上の行為が行われた当時知事の職務を代理する場合にも該当しなかったのである。副知事は、右のとおり知事の補助機関である「当該職員」が担任する事務を監督する権限を有するが、これは財務会計上の行為を行う権限を含まないのである(議会議長について前掲最高裁昭和六二年四月一〇日判決、副知事について広島地裁平成七年三月一六日判決・判例地方自治一四二号一八頁、大分地裁平成六年六月三〇日判決・判例地方自治一二八号三七頁参照)。
2 原告らは、「被告(2)は、補助職員がした財務会計上の違法行為により兵庫県が被った損害につき賠償責任を負う地位にあるから、仮に「当該職員」に該当せず地方自治法二四二条の二第一項四号前段の被告適格を有しないとしても、少なくとも同号後段請求の被告適格は認められる。」と主張する。
原告らの右主張は、被告(2)が「当該行為に係る相手方」に当たるというのか、「怠る事実に係る相手方」に該当するというのか明らかでないが、いずれにしても原告ら主張のような代位請求が許されるとすれば、地方公共団体の職員が財務会計上の行為でない職務行為によって地方公共団体に損害を与えた場合も、住民訴訟によって損害賠償請求権の代位行使が許されることとなり、地方自治法が住民訴訟の対象を一定の財務会計上の行為に限定した趣旨を没却することになる。
したがって、原告らが主張するような代位請求は法に定める住民訴訟の類型に該当しないものというべきであり、不適法な訴えとして却下されるべきである(前掲広島地裁平成七年三月一六日判決、前掲最高裁昭和六二年四月一〇日判決の調査官解説[判例解説民事篇昭和六二年度]一三九頁参照。なお、そのほか、後記二3の争点2(三)における主張を加える。)。
3 被告(2)に対する訴えは、監査請求を経たとはいえないから、この点でも不適法である。
二 争点2(被告(5)ないし被告(21)に対する地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく訴えは適法か)について
(原告らの主張)
被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは、監査請求を経ており(争点2(一)、また、法が認めた住民訴訟の類型にも該当する(争点2の(二)及び(三))から、同被告らに対する地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく訴えは適法である。
1 争点2(一)(被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは監査請求を経たということができるか)について
地方自治法二四二条の二第一項四号前段の請求は、地方公共団体に代位して行う「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求であり、その被告(適格者)は「当該職員」に限られている。そして、原告らは、「当該職員」たる支出手続担当者のみならず飲食者についても監査請求をしているのであるから、原告らの監査請求には、「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に対する請求を含んでいることは当然である。
また、「法第二四二条一項は、同項にいう当該行為又は怠る事実によって普通地方公共団体の被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきことにつき住民監査請求をすることができる旨規定するにとどまるのであって、同規定を解釈して、住民監査請求においては、所論のように、より具体的に損害賠償請求権の不行使が怠る事実に当たるとまで主張しなければならないと解することはできない」(最高裁昭和五七年七月一三日判決・民集三六巻六号九七〇頁・判時一〇五四号五二頁)のであるから、飲食者に対して損害の賠償を請求している本件監査請求においては、兵庫県の被った損害をその原因者である飲食者に何らかの形で負担させるべきであるという主張が当然含まれており、本件監査請求の趣旨は明確であって、住民訴訟の前提としての監査請求の要件を充たしている。
したがって、被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは監査請求を経たということができる。
2 争点2(二)(「当該職員」に該当しない職員の職務行為を理由とする住民訴訟は適法か)及び同(三)(被告(5)ないし被告(21)は「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に該当するか)について
被告(5)ないし被告(21)は、「当該職員」に該当しない職員の職務行為を理由とする住民訴訟は不適法である旨主張するが、地方公共団体の職員以外の者に対しては、地方自治法二四二条の二第一項四号後段の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」として代位請求をすることが可能なのであるから、「当該職員」に該当しない職員に対しては同号後段の代位請求はなし得ないとして右職員を手厚く保護すべき合理的な理由は全くない。また、右被告らは、地方自治法が、「当該職員」の弁護士報酬を地方公共団体が負担できる旨規定しながら(二四二条の二第八項)、「当該職員」に該当しない職員についてそのような規定をしなかったのは、そのような職員に対する住民訴訟を想定しなかったためである旨主張するが、職務にかかわる行為が問題になるからこそ弁護士報酬を地方公共団体が負担するのであって、職務権限がない職員の弁護士報酬を地方公共団体が負担しないのは当然のことである。
地方自治法二四二条の二第一項四号後段の「相手方」の責任は、「当該職員」・「職務行為」という地位に基づくものではなく、「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」という地位に基づく責任なのであるから、取扱いを異にするのは当然である。
本件では、被告(5)ないし被告(21)は、違法かつ不当な食糧費の支出であることを知悉しながら飲食を提供させ、あるいは飲食代金の出費を免れたのであるから、飲食代金相当額を利得していることは明らかであり、かつ、社会通念上は右食糧費の支出と右利得との間に因果関係があることも明らかであって、兵庫県は、右職員に対して少なくとも不当利得返還請求権を有しているのである。
したがって、被告(5)ないし被告(21)は被告適格を有する。
(被告(5)ないし被告(21)の主張)
被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは、監査請求を経たということはできず(争点2(一))、また、法が認めた住民訴訟の類型にも該当しない(争点2の(二)及び(三))から、同被告らに対する地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく訴えは不適法であり、却下されるべきである。
1 争点2(一)(被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは監査請求を経たということができるか)について
原告らの監査請求の要旨は、本各支出が違法・不当なものであり、これを行った支出手続担当者及び飲食者に対し、当該違法・不当な支出により兵庫県が被った損害の賠償を求めるというものであるから、この請求は、違法・不当な支出により兵庫県に同額の損害を与えたとしてなす地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づく損害賠償の代位請求と解され、兵庫県が被告(5)ないし被告(21)に対して有する損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権の不行使を「怠る事実」として、当該怠る事実の相手方に対し不当利得の返還を求めるというような趣旨は、全く含まれないのである。
したがって、原告らの被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは、監査請求を経たということができず、不適法である。
2 争点2(二)(「当該職員」に該当しない職員の職務行為を理由とする住民訴訟は適法か)について
地方自治法二四二条の二第一項四号前段は、地方公共団体に代位して行う「当該職員」に対する損害賠償の請求又は不当利得返還の請求であり、被告は「当該職員」に限られており、財務会計上の行為又は財産管理を行う権限を有する職員の地方公共団体に対する財務会計法規上の義務違反の追及等をしてそれによる損害等を補填させることを目的として法が特別に認めたものである。要するに、地方公共団体の職員のうち、財務会計上の行為又は財産管理に係る権限を法規上有する職員に対してのみ、その権限行使行為又は不行使に違法があった場合に住民が地方公共団体に代位して損害賠償の請求又は不当利得返還の請求をすることを認めるものである。したがって、「当該職員」に該当しない職員の職務行為によって地方公共団体が損害を被っても、地方自治法二四二条の二第一項四号前段による請求はなしえないものである。
しかるところ、もし、「当該職員」に該当しない職員に対して、その職員が同法二四二条の二第一項四号後段に定める「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に該当するとして、「当該職員」に対する場合と同様に代位請求が許されるとすれば、地方公共団体の職員が財務会計上の行為や財産管理行為に該当しない職務行為によって地方公共団体に損害を与えた場合も、住民訴訟によって損害賠償請求権の代位行使が許されることとなり、これは、法が住民訴訟の対象を一定の財務会計行為に限定し、被告とし得る者を一定の職員に限定した趣旨に反することとなる。
このことは、次のような規定からもうかがえる。すなわち、地方自治法二四二条の二第一項ただし書の規定により、代位請求訴訟に係る請求のうち職員に対する不当利得の返還請求は、「当該職員」に利益の存する限度に限るものとされ、また、同条八項の規定により、被告たる「当該職員」が勝訴した場合、地方公共団体は議会の議決を経て弁護士報酬の範囲内で相当と認められる額を負担できるものとされている。もし、「当該職員」に該当しない職員に対しても、その職務行為の違法を理由とする損害賠償請求を地方公共団体に代位してする住民訴訟が許されるとするなら、右のような取扱いの規定は、地方公共団体の職員であること及び職務行為であることにおいて同一であるのに、「当該職員」についてのみ弁護士報酬の負担等に関し特別取扱いを規定したこととなり、これは整合性を欠くこととなる。地方自治法が「当該職員」に該当しない職員についてそのような規定をしなかったのは、そのような職員に対する住民訴訟を想定しなかったためである。
要するに、「当該職員」に該当しない職員の職務行為に関しては、地方自治法二四二条の二第一項四号後段の「相手方」に該当しないものと解すべきであり、したがって、被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは、同法の認めた住民訴訟の類型に該当しないものであり、不適法である。
3 争点2(三)(被告(5)ないし被告(21)は「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に該当するか)について
地方自治法二四二条の二第一項四号後段の「相手方」は、財務会計上の違法な行為又は怠る事実の直接の相手方に限られず、地方公共団体が有する実体上の請求権についてこれを履行する義務があるとされる者であるとされるが(前掲最高裁昭和五三年六月二三日判決)、この相手方に対する実体上の請求権は財務会計上の違法な行為又は怠る事実によって生じたものであることが必要であると解すべきである。右のような限定を付さないとすると、非財務会計上の行為に関する一般の損害賠償請求権についても、これを「財産の管理を怠る事実」と構成することによって、住民訴訟の対象とすることができることとなり、住民訴訟の対象を財務会計上の行為に限定した法の趣旨が失われてしまう。
しかるところ、財務会計上の違法な行為又は怠る事実の直接の相手方以外の第三者に対する地方公共団体の有する請求権がその違法な行為又は怠る事実によって生じたものであるといえるためには、「当該職員」による財務会計上の違法な行為又は違法に怠る事実と第三者の損害賠償等の義務の発生との間に法的な牽連関係が存することを要すると解すべきところ、本件財務会計上の行為と被告(5)ないし被告(21)の飲食行為との間には、事実上の関係はともかく、法的な牽連関係がない。この場合、「当該行為に係る相手方」は、財務会計上の行為の相手方、すなわち公金支払の相手方たる会食の利用店を指し、会食をした者は「相手方」に該当しない。
したがって、仮に兵庫県が右被告らに対してその飲食行為の故をもって損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したとしても、その請求権は、財務会計上の違法な行為又は怠る事実によって生じたものとはいえず、右被告らは地方自治法二四二条の二第一項四号後段の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に該当しないから、右被告らに対する請求は、元来住民訴訟の対象とはなりえないものである。
結局、被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは、地方自治法の認めた住民訴訟の類型に該当しないものであり、不適法である。
三 争点3(本件各支出について、各被告は損害賠償ないし不当利得返還の責任を負うか)について
(原告らの主張)
1(一)国、地方自治体の財政、公金支出等については、いわば国民(市民)のかけがえのない金を預かり、それを支出するものであるから、公正な目的のため、公正な手続を経てなされなければならない。地方自治法二条一四項は、「地方公共団体は、その事務を処理するに当っては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と定め、また、地方財政法四条一項も、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない」と明確に定めている。
こうした趣旨からして、公金支出は、事前事後において、その目的、内容、必要な程度等につき、その公正、健全さを住民に対し十分に説明できるものでなくてはならず、その支出担当者が主観的に正当な目的で使ったかどうかではなく、事後的にも客観的に正当性を検証できるものでなくてはならない。殊に、本件で問題となっている「食糧費」は、各種会議用又は式日用茶菓・弁当、応接用茶菓、非常炊出賄、警察留置人食糧、病院・療養所等の患者食糧、宿泊所・保育所等の賄料等と解されているにもかかわらず、これがしばしば「宴会行政」に費消され、その趣旨・目的を離れて浪費されてきた事実があるからなおさらである。
(二)兵庫県においては、平成七年、阪神・淡路大震災という未曾有の大災害を経験し、その災害復興に向けて、行政当局のみならず、すべての住民が必死の努力を続けなければならない状況にあり、行政としては、限られた財政の中で、巨額の予算を災害復興に充てなければならない状況に置かれた。
更に、「行財政改革の推進」、そして地方自治体における財政改革が近年つとに叫ばれ、地方自治体においても緊縮財政に向けての努力の必要性が叫ばれてきた中、兵庫県においても、「平成八年度予算の編成においても、事務的経費の抑制と徹底した事務事業の見直しが行われ」、(本件各会食がなされた直前の時期である)平成八年二月一六日付けで、兵庫県企画部長から、出納長・知事公室長、各部長、公営企業管理者、議会事務局長、教育長、各行政委員会事務局長宛に、「経費節減の取組みについて」と題する通知(甲一一)が発せられ、経費節減の努力を、「全庁的」に、「積極的に」行うことと決定されたのである。
(三) 食糧費の支出の当否の検討に当たっては、①会合の趣旨・目的、②当該会合に至った経緯、③会合の内容、④会合の場所、⑤費用、⑥会食の内容等の諸点を検討し、総合的にみて、公務の必要性に沿い、「行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費」としての「食糧費」の支出として、相当なものであったと言い得るかを判定する必要がある。
この判定においては、本来の公務として執行されたのであるから、その説明義務の履行の上からも、その会合の記録なり、事後的な報告は必要不可欠である。しかるに、本件各会食については、「本来の会議の延長」と説明しながら、いずれについても、その会議の記録もなければ、何らかの形で事後報告がなされた形跡もない。本件各支出は、その一点だけからでも違法性は明らかである。
そして、本件訴訟の審理におけるそれぞれの当事者の陳述・説明によっても、本件各支出は、そのいずれもが、前記①ないし⑥等の点から、前記の地方公共団体における財政の原則、そして「食糧費」の本来の趣旨に照らし、公金の正当な支出の範囲を逸脱していること、すなわち、職員の慰労のための飲食に支出された違法なものであることが明らかである。
阪神淡路大震災による災害からの一日も早い復興、更に、地方自治体における「経費節減」の緊要性からして、本件各支出は、どのように見ても正当化することは不可能である。
2 本件各会食のうち番号1、3、4、11、12、14、15、16、19、20の各会食に係る支出が食糧費の趣旨を逸脱し、違法であることを具体的に述べると、以下のとおりである。
(一) 番号1の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、会議の目的及び内容は、青函道路橋の建設構想を検討している北海道庁の職員が、明石海峡大橋の建設経緯や建設状況等を兵庫県側から聴取するため来庁したのに対応したものである。相手方が午後三時に到着し、その後二、三時間で説明を終える予定であったので、会食は予定していなかったが(被告(6)Cの供述)、相手方の到着が一時間遅れ、夕食時間帯になってもなお意見交換をする必要があったため、来訪者に対する接遇も兼ねて会食をしながら意見交換を行った、というのである。
(2) 問題点
本件の会議は、主として相手方が兵庫県側から事情聴取するために来庁したことによるものであり、兵庫県の方から必要があって来庁を依頼したものではない。したがって、相手方による事情聴取が延びたとしても、県の公務遂行にとって酒食を提供する必要性はなかった。飲酒の量も、会議をする上で必要がないほど多量である。
本件会食に「接遇」の意味があるとしても、あらかじめ会食を予定していなかった以上、「接遇」の必要性自体も乏しかったというべきである。また、かかる接待の費用を食糧費でもって支出するのは食糧費の趣旨に反することは明らかである。
このように、本件会食のための食糧費の支出には必要性も合理性もない。
(二) 番号3の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、会議の目的及び内容は、西宮市のβにある大学が所有するヨットの艇庫を新西宮ヨットハーバー株式会社が管理している区域内に移転することになっていたが、そのための配置、面積、料金等について新西宮ヨットハーバー株式会社の同意を得る必要があった、というものである。会議が長引いたために会食したが、これは、大学側の都合で日を変えて再度会議を行うということはできなかったことによる、というのである。
(2) 問題点
本件会議の内容に関しては、実務責任者間では一応了解を得ていたというのであるから、本件会議を延長する必要性に乏しく、まして、会食をする必要など全くなかった。
相手方は、国有地から艇庫を移転させなければならないという県の立場は十分承知していたはずであり、しかも、本件の直接の当事者は、艇庫を建て替える大学とその場所を提供する新西宮ヨットハーバー株式会社であって、県は両者の仲介をする立場にすぎなかったのであるから、仮に会議が延びたとしても会食をする必要は全くなかった。
また、新西宮ヨットハーバー株式会社は兵庫県も出資している第三セクターであり、本件会食の相手方はいずれも県からの出向者であって(被告(9)Iの供述)、職員間での会食は食糧費の執行としては適正でないという県の方針(同供述)に実質的に抵触する。酒量も決して少なくない量である。
(三) 番号4の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯 被告らの主張によると、会合の目的及び内容は、姫路港の利用促進を図るための姫路港ポートセールス推進協議会を発足させるため、姫路埠頭株式会社に右協議会の趣旨を説明し、協議会運営に対する同社の人的支援及び負担金の支出について協力要請をした、というのである。会議が延び、同協議会を平成八年度より発足させるためには時間的余裕もなく、相手方も多忙であり、日を変えて再度会議を行うことが困難であったために、引き続き会食をしながら意見交換、協力要請を行った、というのである。
(2) 問題点
平成八年四月の年度当初発足が決まっていたのであるから、もっと前から事前協議、根回しをしておくことは十分可能であったはずであるし、資金の一部負担を要請するのであれば、当然、事前の根回しが必要であって、同年三月六日午後遅くから初めての打合せをして、その日に結論を出すという日程調整の仕方からは、終業時刻までに会議が終わらないことをあらかじめ承知していたとしか思えない。
そもそも、姫路埠頭株式会社は、兵庫県も出資する第三セクターで、役員に兵庫県職員のOBもいるような会社である(被告(9)Iの供述)から、兵庫県の綱紀粛正の方針にも十分理解があるはずであり、会議が延びたのに飲食をしなかったからといって、会議の目的が円滑に達成できなかったということは考えられない。
また、会食の会場となった「佐和」はカウンター席のみの店であり、常識的に考えて何らかの会議ができる状況ではない。何よりも、飲食の内容は、食事というにはほど遠いものである。すなわち、そもそも会議の際に飲酒する必要は全くないにもかかわらず、料理はいずれも酒の肴ばかりであり、かつ、多量の飲酒をしているのであって、実態は、一緒に酒を飲むことを目的として設定されたものという他ない。
(四) 番号11の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、播磨空港建設促進協議会の平成八年度の活動方針についての協議及び播磨空港に対する関係各商工会議所の考え方についての情報収集のための会議を午後三時ころから行っていたが、会議が夕食時間帯に及んだため、日頃の事務局としての協力に対する謝意も含め、会食をしながら意見交換を行った、というのである。
(2) 問題点
常識的に言って、よほど複雑な事項について協議しているのでない限り、三時間以上にもわたって協議が必要だとは考えられない。被告(12)L自身、その供述において、県と商工会議所との間に意見対立がなかったことを認めている。仮に、難しい問題で協議を続ける必要があったのであれば、酒を飲みながらの会食では協議を続けることは困難であったはずである。
しかも、県の空港整備課においては、その後の同月二一日(番号16の会食)、二八日(番号20の会食)にも、食糧費の支出を伴う会食を行っており、いずれも会議が長引き夕食時間帯に及んだということを理由としている。重大な協議であったとしながら、報告書も作成していないということを考えると、結局、協議を続ける必要があった旨の被告らの主張は全く信用できない。
したがって、本件会食のための食糧費の支出に、行政執行との関連性、必要性は見い出せない。
また、提供された酒量にかんがみれば、本件会食の実態は宴会そのものであり、接遇としても社会常識上認め得る範囲を大きく逸脱していることは明らかである。
(五) 番号12の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、阪神・淡路大震災により被害を受けた鉄道事業者に対して兵庫県及び鉄道整備基金が行った補助金の交付について、県及び鉄道整備基金が共同で現地審査をし、ほぼ完了する段階となった時点で、同基金の指導、協力に対する感謝の意味も含め、会食をしながら意見交換を行った、ということである。そして、高架下の権利者の営業補償の問題等について意見交換をするとともに、現地審査の結果についての同基金側の総括的な考え方等について意見交換を行い、その後の県の補助金交付事務を的確に進める上で有意義であった、というのである。
(2) 問題点
現地審査は八事業体について行っており、その結果については事業体ごとに総括的な情報交換の会議は既に行われていたのであり、被告(13)Mの供述によれば、横断的な総括が必要であったとのことであるが、その内容は判然としない。また、今後の県の鉄道整備事業の執行につき、鉄道整備基金からどのような情報を得る必要があったのかも判然としない。そもそも、会議の議題を事前に設定もしておらず、会食の責任者であった被告(13)M自身、どういう問題で懇談するのかを鉄道整備基金に伝えているか否かさえも把握していないのである。
提供された酒の量からしても本件会食の実態は単なる「打ち上げ」以外の何ものでもない。本件会食は、鉄道整備基金の指導、協力に対する感謝の意味もあったとするが、相手方である鉄道整備基金の職員は公務員であるから、いわゆる「官官接待」そのものであり、許されるものではない。
以上の点からして、到底、業務の執行との関連性、必要性は認められない。
(六) 番号14の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、当日、午後一時三〇分ころから建設省係官に防災工事の現場を見分してもらい、午後四時ころから土木部砂防課内で、事故繰越についての協議を行ったが、午後七時ころになっても協議が終了せず、年度末で多忙なため、引き続き会食をしながら協議を行った、というのである。
(2) 問題点
午後一時三〇分ころからの現場見分の間に、建設省と兵庫県の各担当者の間で様々なやりとりがなされているはずであり、その後にも、三時間もの会議がもたれているのであるから、その会議でも「重要な問題がまだ残されていた」(被告(16)Pの供述)というのであれば、その日の午後の長時間をかけてなされた現場見分・会議においても協議が終えられなかった「重要な問題」が何であったのか、具体的に明らかに指摘されて当然であるのに、全く明らかにされていない。のみならず、それまでの会議で用いられていた資料等は本件会食の場に持参されていない、というのであって、何らの資料もなしに「重要会議が続行される」などということは、常識的には考えられない。提供された酒の量も多い。
本件会食の実態は、兵庫県による中央官庁である建設省の役人に対する「官官接待」の典型的なものであり、本件会食のための食糧費の支出は、その趣旨をはるかに逸脱していることが明らかである。
(七) 番号15の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、西宮浜北護岸の物揚場修繕工事を行うに当たって、工事の支障になる同護岸に係留されているプレジャーボートを移転させる必要があり、移転先として新西宮ヨットハーバー株式会社に優先枠の確保をお願いしていたものの、係留料金について意見の相違があり、移転交渉が難航していたところ、当日の会議が長引いたが、平成八年度に国に予算要求をするか否かは三月末までに決めなければならない状況にあり、再度日を改めて会議を行うことは困難であったため、引き続き会食をしながら協議、協力要請を行った、というのである。
(2) 問題点
新西宮ヨットハーバー株式会社は兵庫県が最大の出資者となっている第三セクターであり、社長は兵庫県副知事である。しかも、本件会食の相手方(X専務取締役及びY総務部次長兼総務課長)は、いずれも県の土木関係の部署からの出向者であり、護岸工事について早期に方針を決めて予算要求をしなければならないという県の立場は十分承知していたはずである。また、X専務取締役は前の兵庫県土木部総務課長として食糧費の支出をチェックする立場にあったのであるから、綱紀粛正を図るという県の方針も理解していたし、職員間での会食は食糧費の執行としては適正でないという県の方針も十分承知していた。したがって、会議が延びたとしても会食をする必要は全くなかった。
また、同じ「あさの」で飲食をしている番号1の会食と比較すると、酒代の占める割合が大きい。
会議における最も重要な問題点はプレジャーボートの係留料金の軽減であったはずであるが、その点については結局成果が上がらず、継続協議となったのである。したがって、会食の成果はなかったということができるし、また、継続協議が可能であったのであるから、三月二一日に会食をする必要性はなかったということになる。
(八) 番号16の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、当日午後四時三〇分ころから、関西国際空港の開港に伴う、淡路地域の電波障害、騒音等の問題について協議を行っていたが、午後五時三〇分ころになっても協議が終了しなかったため、接遇も兼ねて会食をしながら、地元の現状を説明し、電波障害、騒音等の課題解決に向け強く要望した、ということである。協議内容が複雑多岐にわたり、日程調整の結果会議の開始時刻が遅くなったこともあって、午後五時三〇分ころになっても協議が終了しなかったが、電波障害等の対策を関西国際空港株式会社の平成八年度事業執行方針の中に取り入れてもらうため、どうしても三月中に協議を終わらせる必要があり、かつ、相手方も年度末で多忙であり、改めて会議を開くことは困難であった、というのである。
(2) 問題点
協議内容が被告ら主張のとおりであるとすれば、協議内容の重要性、複雑多岐性、緊急性からして、飲食を共にしながら協議をするような事柄ではあり得ない。逆に、このような内容を、酒を飲みながら協議していたとすれば、飲酒をしながら仕事をしていたということであり、社会一般の常識からして絶対に許されることではない。かような重要な協議を飲酒を伴う会食をしながら行うこと自体、行政執行から逸脱しており、行政執行との関連性、必要性は全く見出せない。
被告らは、接遇の趣旨も含むとするが、重要な事項に関する協議を、接遇もしながら行うというのは、社会一般の常識からして相矛盾する。しかも、相手方出席者三名のうち二名は県からの出向者であって、仮に接遇という目的による食糧費の支出が許されるとしても、食事の単価、酒量は相当性を全く欠いたものである。
(九) 番号19の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張(乙二三被告(20)Tの陳述書)によると、山陽自動車道神戸・三木間の建設事業の早期解決を図るため、年度末を迎え、新年度の人事異動までに、用地交渉に当たった土地開発公社の課長等からの説明を踏まえ、課題解決のための方向を定める必要があり、午後四時から会議を行ったものであり、右の時期にそうした会議をもったのは、土地開発公社の用地課長等が転勤することになったからであり、そして、未処理案件を一件ごとに洗い出していったことから、予想外に会議が長引いてしまい、本件会食に至った、というのである。
(2) 問題点
会食の相手方である兵庫県土地開発公社は兵庫県の外郭団体であり、その相手方職員は元兵庫県土木部の用地関係の職員であり、転勤が予定されていた兵庫県土地開発公社用地第一課長の転勤先は兵庫県土木部の神戸土木事務所であった、というのであるから、相手方職員は、実態としてはほぼ同僚といってもよい関係にあった。
用地第一課長の転勤の内示が三月二二日(金曜日)にあると、被告(20)Tは、その日にすぐ「大東閣」(中華料理店)を予約し、そして、同月二五日(月曜日)には、午後四時からという時間帯に会議を設定した(被告(20)Tの供述)、というのであるから、こうした状況からすれば、本件会食は、予想外に会議が長引いたためにもたれたというようなものではなく、兵庫県土地開発公社用地第一課長の転勤の「送別会」的な趣旨でもたれたことが明らかである。
被告(20)Tの職場である兵庫県社土木事務所と相手方の兵庫県土地開発公社東播磨事務所とは場所的にも同じ三木市内で比較的近いところにあり、関係する業務の連絡は普段から密であったはずであるし、また、用地第一課長の転勤先は被告(20)Tらと同じ兵庫県土木部であるから、その後の連絡が困難になることはない。本件会食における会議の報告等の資料も残されていない。いずれの事実からしても、本件会食が何らかの真面目な職務の必要からもたれたものでないことは明らかなところである。同被告も、「御苦労さんというより、頑張ってくれよという」趣旨であった、と認めている(同被告の供述)。
以上のように、本件は、何らかの重要議題があって会議がもたれたのではなく、土地開発公社の一課長が転勤するということを利用して、単に飲み食いのみを目的として会食の機会が設定された、というのが真相である。
(一〇) 番号20の会食について
(1) 被告らの主張する会食の趣旨・目的及び当該会食に至った経緯
被告らの主張によると、当日午後三時半ころから但馬路線の運航体制維持のために協議を行っていたが、協議の内容が複雑多岐にわたったため十分議論を尽くしきれないまま午後五時半ころになり、どうしても三月中に協議を終わらせておく必要があったから、接遇も兼ね、引き続き会食をしながら協議をした、というのである。
(2) 問題点
被告ら主張のような重要な会議であるならば、そもそも料理屋で飲食をしながら行うこと自体が社会一般の常識から甚だしく逸脱するものであるとともに、会食を行うことを決めた時点で、相手方である株式会社日本エアーシステムの担当者が午後七時ころまでには会議を終えて帰らなければならないことが分かっており、かつ、会議も後一時間程度で終わる見込みであったというのであるから(被告(12)Lの供述)、そのまま会議を続ければ済んでいた話である。現に会食は午後六時から午後七時までの一時間しかなされていないのであるから、この間飲食をしないで協議を続けていたとすれば、それにかかった時間はせいぜい三〇分程度であったことが明らかである。そうすると、会議をいったん打ち切った午後五時半の時点で、会議をいったん打ち切ることなく継続していたとすれば、三〇分後の午後六時には十分に会議を終えることができたものと考えられる。
したがって、行政事務の執行との間に直接的な関連性、必要性は見出せない。
料理の単価も通常人の感覚からして高く、また、酒が供されている点からして、相当なものとは認められない。
3 番号2、5、6、7、8、9、10、13、17及び18の各会食に係る支出について、被告らは、被告(4)Aが各支出に相当する金額及び利息を返還したことにより、兵庫県は出捐を回復しており、財産的損失を被っていないから、その余の点を判断するまでもなく理由がない旨主張する。
(一) しかし、本件訴訟のような住民訴訟の制度は、一般の民事訴訟のごとく当事者間の利益の調整を本質とするものではなく、違法な財務会計上の行為を予防し、又は更正し、これによって地方公共団体が損害を被る事態を回避し、又はその被った損害を回復する制度であるから、このように県民が公共の利益のために提起したものであるという本件訴訟の本質からして、今後もこのような違法な支出がなされないためにも、返還された一〇件についてその違法を宣言することには大きな意味がある。
また、右一〇件についての金員返還は、形式的には被告(4)A個人の名前で行われているが、同人は事前に上司・同僚とも相談し、土木部の各課長を中心にカンパをしてもらった上で返還しているのであって(同被告の供述)、組織ぐるみで返還の手続を取っていることが明らかである。いい加減な決裁をしていても、自腹は切らずに、組織ぐるみで庇ってもらえるなら誰もきちんとした決裁はしないであろう。このような意識で決裁がなされているから、違法な食糧費の支出が繰り返されるのであり、このようなことを許さないためにも返還された一〇件の違法性をうやむやにしてはならない。
(二) 返還された一〇件に係る各支出は、以下のとおり違法であることが明らかであり、支出権者の裁量の範囲外の行為である。
この点に関して、被告(4)Aは、右一〇件について返還した理由として、
① 相手方の出席者から公表することについて同意が得られなかった場合、
② その場所にスナックなどが含まれていたり、県側と相手方とのバランスが若干悪い場合、
③ 公文書に出席者とか目的とか詳細な記載がないということで、職務執行との関連性、必要性が十分に説明しきれない場合
の三つをあげている(同被告の供述)。
(1) 相手方の出席者から公表することについて同意が得られなかった場合(番号2の会食)について
この場合、相手方も公務で会議・会食をしているのであるから、そもそも会議に出席した者の職や氏名を公表しても全く差し支えないはずである。公表しないことが正当化される場合というのは、行政事務の執行上秘密裡に行うことが要請される会議くらいであろうが、秘密裡に行われるべき会議が酒食を伴った会食で継続的に行われることなどあり得ない。したがって、会議に出席した者の職や氏名を公表できないということは、その会議自体が公表できないような性質のもの(違法な会食)であったとしか考えられないから、自ら、その会食が違法であることを認めていることになる。
更に、泉南市食糧費判決(大阪高裁平成八年一一月二二日判決・判タ九二七号一一五頁)の基準を当てはめると、返還された一〇件を含めて本件各支出の全てが一人当たり六〇〇〇円を超えているから、相手方の出席者を公表できない会食については、すべて違法な公金の支出ということになる。
(2) その場所にスナックなどが含まれていたり(番号9、10、18の会食)、県側と相手方とのバランスが若干悪い場合(番号5、6、7、8、13の会食)について
被告(4)Aは、会食場所としてスナックなども含まれている分について、実質的には問題がないとしながら返還しているが、問題がなければ返還しないわけであるから、これも違法であることを実質的には認めていることになる。また、一般的に、スナックという形態の飲食店は、会食というよりも飲酒や遊興を主たる営業目的とするものであることが明らかであり、会議に相応しくない場所であることは議論するまでもないことである。このような場所での会議が実質的には問題がないなどというのは、社会常識からあまりにも乖離した言い分である。
また、県側と相手方の出席者のバランスが若干悪い場合というのは、中身がいまひとつ分かりづらいが、明らかに県の職員同士だけの会食(番号5、13の会食)もあり、職員同士の会食は慎むようにとの説明は受けていたというのであるから、この場合も明らかに違法であり、その会食に関わった職員や支出の決裁をした者は、違法であることをそれぞれ認識し得たはずである。万一、これが違法であるとは思わなかったというのであれば、そのような意識そのものが非難されるべきものである。
(3) 公文書に出席者とか目的とか詳細な記載がないということで、職務執行との関連性、必要性が十分に説明しきれない場合(番号17の会食)について
公文書に出席者とか目的とか詳細な記載がないということで、職務執行との関連性、必要性が十分に説明しきれない場合というのは、その会食につき職務執行との関連性、必要性があったとは認められないわけであるから、当然にその支出行為は違法であることが明白である。
4 被告らは、本件各支出に係る支出負担行為や支出命令については、いずれも、財務規則に従って代理決裁権限を与えられている土木部総務副課長によって決裁されており、適正な決裁手続により行われた旨主張する。しかし、本件各支出が適法とされるためには、形式的に決裁権限のある者の決裁を経ているというだけでは足りず、その決裁自体が実質的にも適法・適正に行われたことが必要であるところ、以下のとおり、本件各支出の支出負担行為の事前承認及び支出命令は、実質的に適法・適正に行われたとはいえない。
(一) 支出負担行為の事前協議について
被告(4)Aは、決裁権者(総務副課長)として支出負担行為や支出決定をする場合に注意する事項として、職務執行との関連性・必要性の有無、会議や打合せの内容、会食の場所、参加者、相手方と県側の人数のバランス、一人当たりの単価、支出の総額、二次会・三次会の有無、請求の内容に食糧費としてふさわしくないものが含まれていないかなどを審査するのであり、そして、支出負担行為を決裁する前には、書面(事業執行伺い)によるか口頭によるかは別として、必ず事前に協議されていると供述する(第六回口頭弁論期日)。
しかし、被告(4)Aは一人当たりの金額や会食場所につき明確な基準を持っていたわけではないこと、総務課副課長の決裁は非常に多い上、会議当日に当該会議が夕食時間まで長引いて会食を行うことになったというような場合に、各所管課から連絡を受けてから短時間で必要性や相当性を適正にチェックすることはおよそ不可能であること、被告(4)Aが返還した一〇件分を含めて本件各支出は、すべて違法で、決裁権者の裁量を逸脱していることが明らかであるにもかかわらず、被告(4)Aは、本件各支出におかしいものはなかった旨供述していることからして、きちんと事前協議をした上で支出負担行為がなされていたとは到底考えられない。
(二) 支出決定時点での決裁について
被告(4)Aのなした本件各支出決定は、明らかに同人の裁量を逸脱するもので、きちんと決裁しておれば事前にチェックできたものである。
(1) 被告(4)Aが支出決定をなす場合にチェックする資料は、実際に飲食がされた店からの請求書及び事業執行伺いであるところ、請求書からは金額や料理、酒の内容が分かる程度であり、事業執行伺いにしても簡単な内容が記載されているだけである。これらの資料だけで審査がなされているということだけからしても、支出決定について適正な決裁が行われたとはいえない上、請求書から分かる酒量の多さすら見過ごしている。
(2) 支出決定は、支出負担行為後、請求書が来た時点でなされるものであり、形式的には支出負担行為によって事前承認をしているのであるから、この時点でのチェックはせいぜい請求書と事業執行伺いに齟齬がないかという程度にならざるを得ない。ところが、事前に事業執行伺いや口頭により協議がなされていたというが、事業執行伺いは、後日作成されたものがほとんどであり、実際に飲食した後に作成されるのであるから、請求書との間に齟齬のあるはずがない。
(3) 更に、本件での被告(4)Aの支出決定については、既に前任者が支出負担行為を決裁した後のことでもあり、前任者から特に問題があると引き継いではいなかったのであるから、前任者の決裁に「けちはつけられない」という状況であった。
(4) そして、被告(4)Aは、本件各支出を含めてこれまで支出決定をしなかったということはない(同被告の供述)。同被告は、会食(食糧費の執行)についてはある程度所管課に任せていたというのであるから、結局、所管課が必要であるといえばその判断が尊重され、「よっぽどおかしい分」についてしかチェックされないということになり、本件各支出についてはその「よっぽどおかしい分」についてさえも、監査請求がなされるまでチェックされなかったのである。
5 各被告の責任
(一) 被告(1)D、被告(2)E、被告(3)F
(1) 被告(1)Dは、兵庫県知事として、兵庫県における予算の執行権を有するものであり、違法かつ不当な本件各支出をした最高責任者である。
被告(2)Eは、兵庫県副知事として、土木部を所管し、同県の土木部における予算の執行権について県知事を補佐する立場にあり、違法かつ不当な本件各支出について補佐したものである。
被告(3)Fは、兵庫県出納長として、同県の予算の執行における実務上の責任者であり、違法かつ不当な本件各支出の責任者である。
(2) 右被告らは、本件各支出に具体的に関与していなかったとしても、それぞれ右のとおりの責任ある立場にあることは明らかであり、責任を回避することはできない。ことに、「経費節減の取組について」と題する企画部長の通知(甲一一)は、「出納長」「知事公室長」宛に発せられており、右被告らが、本件各支出について、その濫費のないように監督すべき立場にあったことは明らかなところである。
(二) 被告(4)A
(1) 被告(4)Aは、兵庫県土木部総務副課長として、違法かつ不当な本件各支出に積極的に加担した。
(2) 本件各会食当時の土木部総務副課長(V)は、専決規定に基づいて各違法支出(飲食行為)を決定し、支出負担行為を専決している。そして、本件各支出決定当時の土木部総務副課長である被告(4)Aは、従前から食糧費の決裁手続に関与してその手続を熟知していたものである(同被告の供述)から、違法な支出負担行為であることを知り、又は当然知るべきであったのに、これを適法なものであるとして支出決定をしたのである。したがって、被告(4)Aに故意又は重過失のあることは明らかである。本件各支出(飲食行為)がそれ自体食糧費の性格に反し、相当性を逸脱することは明らかであるから、職務上当然に要求される注意義務を著しく欠いたものである。
(三) その余の被告ら
その余の被告らは、いずれも、兵庫県土木部においてそれぞれ前記第二の二1(二)の職にあった者であり、本件各支出が違法かつ不当な食糧費の支出であることを知悉しながら本件各会食に加わり、飲食代金相当額を違法・不当に支出させたものである。
(被告らの主張)
1(一) 食糧費は、歳出予算の執行科目である節の区分のうち、地方自治法施行規則一五条二項別記に定める予算科目の(節)需用費の(細節)食糧費から支出される経費で、行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費である。これには、会議用、式日用又は接待用の茶菓・弁当、これらの会議に関連して行われる会食費用、病院等の患者食糧、保育所等の賄料、非常炊出賄等が含まれると解されている。
食糧費の支出については、「当該普通地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして許容されるものというべき」であり(最高裁平成元年九月五日判決・判時一三三七号四三頁等)、また、「行政事務の執行上、外部者の参加を求めて会合をもつ必要性があり、これと同時又は引き続いて、会合自体では不十分なところを補ったりあるいは外部者に対し、会合への出席及び情報・助言の提供に対する儀礼の趣旨の接遇を兼ねて食糧費というに相応しい節度のある会食をすることは、なお食糧費の対象の範囲内であるということができる」(大阪高裁平成八年一一月二二日判決・判タ九二七号一一五頁)ものであって、職務執行との関連性、必要性がある場合において、社会通念上相当な範囲で会食を行うことは許容されるものである。そして、この場合、いかなる程度、内容の会食を行うかは、「相手方の身分、地位と会議など職務の内容等に応じて地方公共団体の長又は職員の裁量による」(右大阪高裁判決)とされており、食糧費の支出権限を有する職員の裁量にゆだねられているところである。
(二) しかるところ、本件各会食は、いずれも後記2のとおりの理由で行われたものであり、行政事務の必要上外部者の参加を求めて会議をもつ必要性があり、これに引続いて、会議自体では十分にその目的を達し得ず、その不十分なところを補うことを主たる目的とし、それに附随して遅い時間までの会議への出席、情報・助言の提供、当該行政事務執行への協力に対する謝礼の趣旨の接遇を兼ねて会食を行ったものであって、芸妓がはべったりしたことも、カラオケや二次会、タクシーの利用や土産物の提供なども全くなく、宴会や遊興的要因・雰囲気は全くないものであったから、食糧費の支出として許容される範囲内のものというべきである。
また、会食の程度、内容は、後記2のとおりであるが、相手方の身分、地位及び会議における兵庫県の立場が専ら参加者に協力を懇請し又は参加者の指導、助言を得るというものであることなどを総含すると、支出権限を有する職員の裁量の範囲内のものであり、その逸脱はない。
なお、本件各支出に係る支出負担行為や支出命令については、いずれも、財務規則に従って代理決裁権限を与えられている土木部総務副課長によって決裁されており、適正な決裁手続により行われた。
2 本件各会食のうち番号1、3、4、11、12、14、15、16、19及び20の各会食に係る支出は、以下のとおり、いずれも、職務執行との関連性及び必要性があり、会食に要した金額も、相手方の身分、地位、会合の内容等からみて適正なものであり、支出権限を有する職員に裁量権の逸脱は存しないから、違法ということはできない。
(一) 番号1の会食について
番号1の会食は、道路建設課高速道路室の所掌事務の執行に関して行われたものである。道路建設課高速道路室は、県内の高速道路の計画、建設促進及び総合調整、並びに明石海峡大橋、関連道路の建設促進及び総合調整や、公団から委託を受けた用地買収等に関する事務をつかさどっており、会議及び会食は、同室の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は平成八年三月五日、割烹「あさの」で行われ、相手方出席者は、北海道渡島支庁地域政策室長(本庁課長級)及び同室地域政策課企画係主事の二名である。このため、県も室長又は副課長クラスが対応することとし、明石海峡大橋の構想当時から建設に至るまでの要望活動等の経緯をよく知っている事務担当の道路建設課高速道路室副課長の被告(6)C及び明石海峡大橋技術担当の同室副課長の被告(5)Bの二名が出席した。
相手方の右地域政策室長らは午後三時ころに来庁する予定であったが、実際は一時間ほど遅れたので、会議は、高速道路室の事務室で、午後四時ころから右四名が出席して始められた。
相手方の来庁目的は、北海道で検討していた青函道路橋の建設構想の参考にするため、明石海峡大橋の建設経緯や建設状況等を兵庫県側から聴取することであり、県は、昭和三〇年ごろの明石海峡大橋の建設構想、立ち上げから、国等への要望活動の進め方、長大橋の建設技術、ルート上の問題点等について説明した。一方、県においても、明石海峡大橋のピーアール、利用促進を図ること、明石海峡大橋建設事業を推進していく上で、他府県の評価等を聴取することが必要かつ有益であること、また、紀淡連絡道路をはじめとする県の高速道路の今後のあり方、大規模プロジェクトの進め方等の参考にするため、青函道路橋の構想、立ち上げ、必要性、あり方等に関する情報を聴取収集しておくまたとない機会であることから、同地域政策室長らと明石海峡大橋、青函道路橋をはじめ高速道路、大規模プロジェクト等について、経済効果や必要牲等、かなり詳しく意見、情報の交換を行った。
しかし、夕食時間帯になっても、なお意見交換等に不十分なところが残り、これを補う必要があり、また、翌日は相手方は次のスケジュールがあったことから、遠方からの来訪者に対する接遇も兼ねて、会食をしながら意見交換等を行ったものである。
なお、「あさの」は、県庁から近く、料金が比較的安い、個室のある店であり、会食の内容も、店の平均的なセット料理であり、酒の量も意見交換に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り、会議の実をあげるのに効果のあるものであり、料金の一人当たり単価も八八三七円であった。
この意見交換等により、県は紀淡連絡道路計画の今後の取組みをはじめ、地域の特性、地形、住民二ーズ等を考慮した高速道路建設やプロジェクトの進め方やあり方について、相手方からの意見、情報が大いに参考になった。
(二) 番号3の会食について
番号3の会食は、港湾課の所掌事務の執行に関して行われたものである。
後湾課は、県管理の港湾及び海岸の管理運営、占使用許可、改良工事及び災害復旧工事や、公有水面埋立等に関する事務をつかさどっており、会議及び会食は、同課の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月六日、逸品料理「琴」で行われ、相手方出席者は、新西宮ヨットハーバー株式会社専務取締役(常勤役員のトップで同社における実質的な意思決定者)及び同社建設部次長兼建設課長の二名である。このため、県側も課長又は副課長が対応すべきところであったが、当日別件で早急に処理すべき懸案をかかえていたため、本件業務に精通している担当の港湾課長補佐の被告(7)Gが出席した。
会議への出席を県から同社に依頼したところ、同社の都合もあり、当日午後四時ころから港湾課の事務室で会議を始めた。事務室での会議には、右の三名の他に伺課の担当者一名も出席した。
会議の目的は、α区内のβにある複数の大学のヨット保管庫(艇庫)を、沖にある新西宮ヨットハーバー株式会社が管理する新西宮ヨットハーバー内に移転集約するため、その必要性、事情を同社に説明し理解と協力を得ることであった。βは、阪神間に残された貴重な自然の国有海浜地で、県としては、これをより多くの不特定多数の人の利用に供し得るようにするため、大学の艇庫を新西宮ヨットハーバー内に移転し、そこに集約する方針でいたところ、阪神・淡路大霞災により艇庫が被災したため、元の場所で建て替えたいとの申入れが大学側からあった。しかし、それでは県の右方針の実行が困難になることから、早期に条件整備を行い、新西宮ヨットハーバー内への誘導集約を促進する必要があった。当初は、同社が大きな艇庫を一棟建て、各大学に賃貸するという計画であったが、各大学から個別に合宿もできるような構造の艇庫を建てたいという申出があったので、県が同社建設部次長と協議を行い、一応は了解を得ていた。ところが、実際に大学側が新西宮ヨットハーバー区域内に艇庫を建てるべく同社と具体的に協議したところ、同社の上層部までのコンセンサスが得られていなかったため、円滑に事が進まなかったので、県が急遽実権のある同社専務取締役を交えた会議を開くに至ったものである。
会議では、同社専務取締役等との間で、各大学の艇庫の配置、面積、料金等、移転のための条件について意見交換をし、県から誘導集約について同社に強く協力要請を行ったが、県の方が当初計画を大幅に変更したことも根底にあって、会議が難航し、長引いて夕食時間帯になっても終わらず、なお意見交換、協力要請を行う必要があった。国立大学では、建替えの予算が措置済みであり、未契約のまま次年度に繰り越すことは困難で、年度内にどうしても工事請負契約を締結したいという意向が強かったこと、国立大学以外の他の大学に対しても移転のための条件を早期に提示する必要があったこと、各大学とも学生のクラブ活動を早期に復活させたいと考えていたことから、日を変えて再度会議を行うということはできなかったため、引き続き「琴」で意見交換、協力要請を行うことになった。
なお、「琴」は、県庁から近く、個室が確保でき、昼食に県庁職員も利用するような一般的な店であり、会食の内容も、店の平均的なセット料理であり、酒の量も意見交換、協力要請に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り所期の目的の実現に効果のあるものであり、料金の一人当たり単価も一万〇三三四円であった。
この意見交換、協力要請により、県の意向について同社の理解を得ることができ、国立二大学においては三月二一日に工事請負契約を締結することができ、艇庫が新西宮ヨットハーバー内に建設されるとともに、他の大学についても艇庫の移設の条件等すべて合意に達し、誘導集約事業が大きく前進した。
(三) 番号4の会食について
番号4の会食も、港湾課の所掌事務の執行に関して行われたものである。
港湾課の事務は、前記(二)のとおりであり、会議及び会食は、同課の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月六日、食事処「佐和」で行われ、相手方出席者は、姫路埠頭株式会社業務部長であり、同社の実務級のトップである。このため、県も責任者である港湾課長の被告(8)H及び副課長の被告(9)Iの二名が出席した。
姫路港は、神戸港と同じ格付けの特定重要港湾であるが、貨物取扱量が伸び悩んでいたことから、港湾の振興を図るため、ハード面の整備とともに、ソフト面においてもポートセールス(姫路港の利用勧誘)を積極的に行う必要があった。特に、震災により神戸港が甚大な被害を受けたことから、姫路港において四〇トンの多目的クレーンを設置することになったが、この利用促進のためにも、官民一体となった積極的なポートセールスを行う必要に迫られていた。
そこで、姫路港の利用促進を図る上から、国内・海外の荷主、船社、港務機関等に対して姫路港の宣伝、勧誘をするポートセールス等を行うため、県、姫路市、姫路商工会議所、姫路港運協会及び姫路埠頭株式会社で構成する「姫路港ポートセールス推進協議会」を設置することを計画し、その実現のための取組みをしていた。そして、同協議会の組織、規約等を整理し、県及び姫路市の平成八年度当初予算の確保の見通しがついたのがこの時期であった。
同社は、民間の中で最も港湾活性化の恩恵を受け、また、中心的な役割を担うため、右に関係して、県としては、同社の人的支援及び負担金の協力の約束を取り付ける必要があったこと、その上で、商工会議所や港運協会に協力を依頼する必要があったことから、会議を開くこととした。県から同社に連絡し、当日午後三時ころから港湾課の事務室で前記三名で会議を開くことになった。
会議では、県側から同協議会を運営していくためには姫路埠頭株式会社の人的支援及び負担金が是非とも必要であることを説明し、協力要請をし、両者の間で協議がされたが、姫路港の将来の運営状況等についても協議が及ぶなど、会議での意見交換、協議が長引き、夕食時間帯になっても、協議が不十分で終了しなかった。
しかし、同協議会は、平成八年度当初から発足させるというのが県の方針であったこと、相手方も多忙で日を変えて再度会議を行うことが非常に困難であったことから、どうしても当日中に同社から協力の約束を取り付ける必要があったため、会食をしながら引き続き食事処「佐和」で意見交換、協力要請を行ったものである。
会食の場では、特に運営資金の負担を中心に協力要請を行ったが、あわせて将来の姫路港のあり方や活性化方法についても意見交換を行った。
なお、「佐和」は、県庁から近く、カウンターの店であるが、三名程度であれば意見交換のできる落ち着いた雰囲気の店であり、会食の内容も、庶民的な種類の料理であり、酒の量も意見交換、協力要請に支障となる程度のものでないのはもちろん、十分な意思の疎通を図り、会議の目的を達成する上で効果があったものであり、料金の一人当たり単価も六五三三円であった。
この意見交換、協議、協力要請により、同社から人的支援、金銭的支援の協力の確約を得ることができ、平成八年四月九日に、同協議会及び実務部隊としての「ポートセールス推進チーム」を発足させることができ、県の方針が実現した。
(四) 番号11の会食について
番号11の会食は、空港整備課の所掌事務の執行に関して行われたものである。
空港整備課は、播磨空港及び神戸空港の整備計画の推進、関西国際空港の建設の推進、県立但馬空港(飛行場)の管理運営や、大阪国際空港の周辺整備等に関する事務をつかさどっており、会議及び会食は、同課の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月一八日、「金春」で行われ、相手方出席者は、姫路商工会議所企画調査課長及び同課員の二名であり、播磨地区に空港を建設することを目指して設立された播磨空港建設促進協議会事務局の実務担当者である。播磨空港建設は県政の重要課題の一つであるところ、平成八年度は国の第七次空港整備五箇年計画が策定される重要な年度でもあることから、県側からは空港整備課長の被告(10)K、副課長の被告(11)J及び課長補佐の被告(12)Lの三名が出席した。
播磨空港建設促進協議会は、県、播磨地域一一市三一町及び経済団体等約二八〇団体で構成され、播磨空港建設に向けて、国への要望活動や広報活動を行う協議会である。例年五月に総会を開催し、そこで確定した当該年度の活動方針に基づき国への要望活動を行うことになっていたため、三月中に来年度の活動方針を協議し、一定の目処をつける必要があった。特に今回は、第七次空港整備五箇年計画(平成八年度から一二年度まで)の策定を控え、同計画の中に播磨空港の着工を前提とした位置付けを得るため、平成八牢度早々から県、地元が一体となって国に働きかけていく必要があったので、本件会議はそのために重要な会議となった。播磨空港の事業着手のためには、第七次空港整備五箇年計画に同空港の建設が位置付けられることが是非とも必要であったのである。
会議は、年度末の多忙な中、双方調整の結果、当日午後三時ころから空港整備課の事務室で、前記五名が出席して始まった。会議では、同協議会の平成八年度の活動方針について協議するとともに、播磨空港に対する関係各商工会議所の考え方について相手方課長等から説明を受けるなどして情報収集を行った。平成八年度は第七次空港整備五箇年計画の策定を控え、地元の熱意を示すため、関係各商工会議所の考え方等も踏まえ、従前以上の活動方針を決めなければならない状況であった。というのは、平成三年度から七年度までの第六次空港整備五箇年計画では、播磨空港は「調査検討し必要に応じて整備を図る」という表現で取り上げられており、県も同協議会も、これによって事業着手に向けた計画に位置付けられたと認識していたところ、国の認識としては事業化に結び付くものではないということであったため、このままでは平成八年度はそれまでの事業化に向けた要望活動から後戻りするような格好になるので、従前同協議会のみで要望していたのに加えて各商工会議所としても要望活動をしてもらうため、地元経済界等に、この事情を理解し、かつ行動してもらう必要があった。
このようなことから、各商工会議所の播磨空港に対する考え方が十分に把握できない面もあったりして、夕食時間帯になっても協議が終了しなかったところ、同協議会の総会までの準備の日程上余裕がなかったこと及び相手方課長等も年度末で多忙であり、再度日を改めて会議を行うことは困難であったことから、引き続き「金春」で、日頃の同協議会事務局としての協力に対する謝意も含め、会食をしながら、活動方針の協議及び各商工会議所への働きかけ方についての意見交換を行い、会議での不十分なところを補った。
なお、「金春」は、県庁周辺の個室のある店が空いていなかったため選定した店であるが、地下鉄を利用すればわずかな時間で行くことができ、所在場所は福原であるが店内は個室のある落ち着いた雰囲気の店で、親睦会等でも利用するような一般的な店である。
会食の内容も、店の標準的な価格のコース料理であり、酒の量も協議、意見交換に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り会合の実をあげるのに効果のあるものであり、料金の一人当たり単価は一万二〇二〇円であった。
この会議及び会食での意見交換、協議により、同協議会の平成八年度の活動方針に目処をつけることができるとともに、関係地区の各商工会議所の播磨空港に対する考え方が把握でき、県の第七次空港整備五箇年計画への取組方針についても理解を得ることができ、年度早々より県、地元一体となった国への要望活動に結び付けることができた。その成果として、平成八年一二月に閣議決定された第七次空港整備五箇年計画において、計画、地元条件等が整ったものについて、毎年度予算の範囲内で順次着手するという位置付けを得て、着工ヘの足掛りとなる大きな前進をみた。
(五) 番号12の会食について
番号12の会食は、交通政策室の所掌事務の執行に関して行われたものである。
交通政策室は、「ひょうご21世紀交通ビジョン」の推進、県内の鉄軌道の整備促進、運輸事業振興助成、地方バス路線の運行維持対策や、鉄道災害復旧費への助成等に関する事務をつかさどっており、会議及び会食は、同室の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月二一日、中華料理「棲外楼」で行われ、相手方出席者は、鉄道整備基金業務部助成二課補佐、同課技術・安全係長及び荷課地方鉄道係長の三名であり、当日昼間は山陽電気鉄道の現地審査に携わっていた。県側の出席者は、交通政策副室長の被告(13)M、課長補佐の被告(14)N、主査二名及び事務吏員一名の計五名であり、鉄道事業者八社の現地審査のうちいずれかを担当していた職員である。
鉄道整備基金は、鉄道整備基金法に基づく法人で、新幹線鉄道、主要幹線鉄道及び都市鉄道の計画的かつ着実な整備を促進するとともに、鉄道の安全性及び利便性の向上を図るための施設の改良、業務運営の能率化その他鉄道事業の健全な発達を図る上で必要となる事業又は措置を支援するため、鉄道事業者等に対して補助金の交付、無利子資金の貸付けその他の助成を総合的かつ効率的に行うことを目的としている。
現地審査は、阪神・淡路大震災で被災した鉄道事業者八社の災害復旧事業費に対して、鉄道軌道整備法に基づき県及び同基金が行った補助について、補助金申請のとおりに適正に事業が執行されているかどうかを各社に赴いて調査、確認する手続であり、この審査の結果をふまえて補助金の額を最終的に確定するものである。現地審査は、平成八年一月二三日から三月二二日にかけて、一事業者当たり平均四日間の日程で行ったが、今回の災害復旧事業費は莫大であり、現地審査の事務量も膨大となったので、同基金の担当者は週初めころに神戸に来て、週末ころに帰京するといった厳しいスケジュールで行われ、審査日は終日、書類と現場の審査に従事するという状況であった。
本件会食は、二か月にわたる現地審査がほぼ完了する段階となった時点で、調査結果についての意見を交換したり、補助金交付の事情に精通した同基金職員から補助金交付に係る情報を得ることが、今後の県の補助金交付事務の執行や鉄道整備事業の促進のための職務遂行にとって有益であり、かつ必要があるとの趣旨から、会食をしながらその機会をもったのである。また、県にとっては、鉄道事業者に対する災害復旧事業に係る補助は初めての経験であったため、補助金交付事務の執行や現地審査について、同基金の指導を得ながら合同で行い、特に二か月にわたる現地審査は、同基金の担当者と一体となって行う体制をとったため、的確な審査ができ、県の担当者のレベルアップを図ることもできたことから、同基金の指導、協力に対する感謝の意味もあった。
昼間は審査で時間がとれず、翌二二日は同基金の補佐等が審査終了後すぐに帰京するため日時を改めることができなかったことから、当日午後六時過ぎから中華料理「棲外楼」で行った。
なお、「棲外楼」は、県庁から近く、一卓を囲める個室がある中華料理店で、昼食に県庁職員も気軽に利用するような大衆的な店であり、また、会食の内容は、一般的な中華料理店の平均的なコース料理であり、酒の量も意思の疎通を図り会合の実をあげるのに効果的なものであり、意見交換等に支障となる程度のものではなく、料金の一人当たり単価も八五五三円であった。
会食の場では、今回の災害復旧事業における鉄道高架下の店舗等権利者の営業補償の取扱い、現在の基準上設置しなければならない設備の増加費用の取扱い、鉄道事業者が黒字になった場合の補助金の返還等についての疑問点をはじめ、現地審査の結果についての同基金側の総括的な考え方等について、意見交換を行った。また、当時、県では、片福連絡線の建設、JR福知山線の複線化、JR播但線等の電化高速化、神戸電鉄の複線化など鉄道整備に積極的に取り組んでいたが、利用者負担の原則だけでは整備が困難なため、県・市町が鉄道事業者に助成を行い整備を促進しようと考えていた。そのため、鉄道整備は全国的にも事例が少ないが、積極的に整備についての情報収集を行わねばならない状況にあったので、この機会を捉えて、鉄道整備事業の促進のために国の全額出資により各種の助成を行っていた同基金と意見交換をし、有用な情報の収集を行うことができた。
この意見交換、情報収集により、県と同基金が同一の判断基準で補助金交付のための事務を執行するに当たっての考え方の調整ができ、その後の県の補助金交付事務を的確に進めることができた。また、福知山線複線化の助成の窓口でもある同基金助成二課との交流が深まるとともに、JR播但線の電化高速化など県の鉄道整備事業を推進していく上で非常に有益であった。
(六) 番号14の会食について
番号14の会食は、砂防課の所掌事務の執行に関して行われたものである。
砂防課は、砂防、地すべり防止や、急傾斜地の崩壊による災害の防止等に関する事務をつかさどっており、会議及び会食は、同課の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月二一日、「富久喜」で行われ、相手方出席者は、建設省河川局砂防部傾斜地保全課総務係長、同課急傾斜係長及び同課地すべり係主任の三名である。県側の出席者は、砂防課の技術担当課長補佐の被告(17)Q、事務担当課長補佐の被告(16)P及び事務担当主査の三名が出席した。
県では、阪神・淡路大震災により生じた被災箇所の防災工事を、国からの補助を受け実施していた。予算上、平成六年度予算を工期の関係上平成七年度に繰り越していたが、工事期間の延長等により、もう一年繰り越し、事故繰越をせざるを得なくなった。県では、砂防課所管事業の事故繰越は今まで全く経験がない上、箇所も八件と多く、繰越額も約二〇億円と多額であった。事故繰越は、これが認められると会計年度が二年間延びるというもので、会計年度独立の予算原則からして異例のことであるため、大蔵省の理解を得る対策として、まず、主管省庁である建設省との間で事故繰越の理由等について十分な調整をしておく必要があり、そのため、総務係長等の建設省係官に来庁してもらい、工事現場の視察及び協議等を行ったものである。
なお、事故繰越とは、甲年度より乙年度へ繰り越した歳出予算の経費の金額について、乙年度において避け難い事故のためにその繰越事業に係る事業等が完成せず、乙年度内に支出が終わらない場合に、これを事故繰越として更に丙年度へ繰り越すことができる制度である。手続としては、県が繰越調書を建設大臣に提出し、建設大臣はこれを審査し、必要と認めたときは大蔵大臣に繰越調書を提出し、大蔵大臣の承認を得ることになる。
当日は、午後一時三〇分ころから課長補佐の被告(17)Qが案内して建設省各係官に防災工事の現場を見分してもらい、午後四時ころからは土木部砂防課内で課長補佐の被告(16)P及び担当主査も加わり、六名で、事故繰越調書及び理由書を見ながら、西宮市γやδ等の事故繰越対象の工事箇所毎に問題点や今後の対応策、事故繰越の理由等について、指導や助言を受けながら協議を行った。しかし、箇所が八件で、それぞれ現場の状況が違う工事であり、午後七時ころになっても、繰越理由等についての意見がまとめきれず、協議が終了しなかった。平成八年度への事故繰越の承認を得るためには日程的に余裕がなく、もし大蔵大臣の承認が得られなければ、これらの工事について再度、建設省に新たな事業として補助事業申請をやり直さざるを得ず、それでは震災復旧に一年間の遅れが生じるおそれがあること、また、建設省係官も年度末で多忙であり、改めて協議の日時を設定することはできないことから、県としてはどうしても当日中に終了させておきたかったので、会議の不十分なところを補うため引き続き「富久喜」で会食をしながら繰越理由や今後の工程等の協議を行い、終了させた。
なお、「富久喜」は、県庁から近く、個室のある比較的料金の安い店であり、会食の内容も、店の標準的な価格のコース料理であり、酒の量も協議、意見交換に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り、協議の実をあげるのに効果のあるものであり、料金の一人当たり単価も九一五一円であった。
この協議等により、すべてにつき事故繰越が認められ、その結果、これらの防災工事も平成八年度にはすべて完成した。
(七) 番号15の会食について
番号15の会食は、港湾課の所掌事務の執行に関して行われたものである。
港湾課の事務は、前記(二)のとおりであり、会議及び会食は、同課の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月二一日、割烹「あさの」で行われ、相手方出席者は、新西宮ヨットハーバー株式会社専務取締役(常勤役員のトップで同社における実質的な意思決定者)及び同社総務部次長兼総務課長の二名である。このため、県側も港湾副課長の被告(9)I及び本件業務に精通している担当の港湾課長補佐の被告(7)Gの二名が出席した。
西宮浜北護岸にはプレジャーボートが係留されていたが、これが、震災により被災した同護岸の物揚場修復工事に支障となることから、移転させる必要があった。県としては、移転先の一つである新西宮ヨットハーバー株式会社に、移転するプレジャーボートのための優先枠の確保をお願いしていたものの、係留料金等について意見の相違があり、移転交渉が難航していた。そのため、同護岸の物揚場修復工事の平成七年度における実施が困難となったので、平成八年度早期における整備が必要となり、国に予算要求をすることとしたが、そのためにはプレジャーボートを移転させなければならない上に、国に予算要求をするか否かは三月末までに決めなければならない状況にあつた。その上、同護岸のプレジャーボート所有者が、係留していた桟橋が被災したため無許可で新しい桟橋を設置したので、県が三月五日付け文書で撤去勧告をしたが、同月一四日に所有者の代理人から使用料の軽減を要望するとともに撤去勧告には応じられないとする旨の回答があったこと、同社の優先枠の確保期限が三月末までとなっていたことから、現状のこう着状況を早期に打開するため、移転のための条件面の緩和等について同社と意見交換をし、協力要請を行う必要があった。
そこで、日程調整をした結果、当日午後三時ころから港湾課の事務室で、前記四名に港湾課の担当者一名が加わって会議を開いた。会議では、係留料金の問題をはじめ複数の問題があり、一つずつ検討して詰めていったが、議論が百出し、同社の了解がなかなか得られず、意見調整、協議が長引き、午後六時を過ぎても協議が整わず終了しなかった。しかし、前記のとおり年度内に一定の方向を見出だす必要があり、また、同社専務取締役等も日程調整がつかなかったので、再度日を改めて会議を行うことは困難であった。このため、引き続き割烹「あさの」で会食をしながら、プレジャーボートの移転先引受けや係留料金等、移転引受けに伴う条件の緩和について協議、協力要請を行った。
なお、「あさの」は、県庁から近く、料金が比較的安い、個室のある店であり、会食の内容も、店の標準的なセット料理であり、酒の量も意見交換、協力要請に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り、協議の実をあげるのに効果のあるものであったのであり、料金の一人当たり単価も八八二四円であった。
前記のとおり新西宮ヨットハーバー株式会社の優先枠の確保期限は三月末までとなっていたが、この協力要請等により、その後についてもプレジャーボートの引受けについて了解を得ることができた。
(八) 番号16の会食について
番号16の会食は、空港整備課の所掌事務の執行に関して行われたものである。
空港整備課の事務は、前記(四)のとおりであり、会議及び会食は、同課の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月二一日、「豊福」花隈店で行われ、相手方出席者は、関西国際空港株式会社調整部次長、環境対策課長及び同課調査係長の三名である。このため、県側は土木部次長の被告(18)R、空港整備課長の被告(10)K、同副課長の被告(19)S及び同課長補佐の被告(12)Lの四名が出席した。
関西国際空港の開港に伴い、特に淡路地域の南部で予想以上の電波障害、騒音等が発生したため、地元からも、県が同社に対してこの問題の解決に向けて強く働きかけるよう求められており、また、関西国際空港二期事業や神戸空港の事業を控え、淡路地域の住民感情への対策に特に留意し、同問題の解決を図る必要があった。そのためには、同社の平成八年度事業執行方針が決定される前の三月中に、電波障害、騒音等の課題を解決するため、どうしても同社環境対策部門と協議する必要があった。同社では四月から平成八年度事業執行方針の準備作業に入るため、県と地元の要望を同方針の中に取り上げてもらうには、この時期を外すことができなかった。また、内容の複雑さから双方の次長級人物を含めて協議をする必要があったが、両者とも大変多忙であり、日程調整の結果、他の日時では調整がつかず、当日の午後四時三〇分ころから県土木部次長室で前記七名が出席して会議を開いた。電波障害は、同地域がもともとテレビ電波の弱い地域であるため、飛行機が上空を飛ぶことにより、飛行機に電波が反射し、反射波が直進波に影響し、テレビ画面が乱れる状況になるというものであり、また、騒音は、国の環境基準を上回る状況ではなかったものの、地元から多くの苦情が寄せられていた。
会議では、県側が、電波障害、騒音等の対策を同社の平成八年度事業執行方針の中に取り入れてもらうため、地元の現状を説明し、対策の実施を強く要望したが、被害の状況に対する同社の認識と地元の認識とにかなりの差があり、同社は被害対策にかなり厳しい態度であったため、地元の現状を十分理解してもらうのに時間を費やした。
協議内容が複雑多岐にわたり、また、会議の開始が遅くなったこともあつて、午後五時三〇分ころになっても協議は終了しなかった。
どうしても三月中に協議を終わらせておく必要があったが、同社調整部次長等も年度末で多忙であり、再度日を改めて会議を開くことは困難であったため、接遇も兼ねて引き続き「豊福」で会食をしながら、同社に対し、地元の現状を説明し、電波障害、騒音等の課題解決に向け強く要望を行った。
なお、「豊福」は、県庁から近く、個室のある落ち着いた雰囲気の比較的料金の安い店であり、会食の内容も、店の標準的な価格のコース料理であり、酒の量も協議、意見交換に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り、協議の実をあげるのに効果のあるものであり、料金の一人当たり単価も一万二八九二円であった。
この協議等により、県、地元の要望について同社の理解を得ることができ、電波障害対策等について、平成八年度に同社の十分な対応を得ることができた。具体的には、電波障害対象工事についての基準を弾力的に運用してもらうよう要望し、その結果、平成八年度中に約八〇〇〇戸の工事が完了した。また、騒音問題についても、同社のより深い認識を得て、現在その対策のための取組みが行われている。
(九) 番号19の会食について
番号19の会食は、道路建設課高速道路室の所掌する事務の執行に関して行われたものである。
道路建設課高速道路室の事務は、前記(一)のとおりであり、会議及び会食は、同室の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月二五日、「大東閣」で行われ、相手方出席者は、兵庫県土地開発公社東播磨事務所用地第一課長、用地第二課長及び用地第一副課長の三名で、県側が同公社に再委託していた山陽自動車道等の用地交渉の現地の責任者である。県側は、社土木事務所三木事業所に駐在し、山陽自動車道三木・小野及び西神自動車道担当で県の責任者である道路建設課参事の被告(20)T及び揖当の社土木事務所三木事業所主査の二名が出席した。
県では、県内一時間高速交通網の確立をめざし、県内高速道路基幹軸の整備を県政の重要課題とし、山陽自動車道をその東西基幹軸と位置付けていた。事業の実施主体は日本道路公団であるが、県は地元自治体として、同事業が円滑に進むよう推進体制を整え、地域に密着した地元調整や用地買収の受託など事業推進基盤の早期形成に努めていた。用地買収は、県が日本道路公団から受託し、これを兵庫県土地開発公社に再委託していた。
当時、山陽自動車道神戸・三木間建設事業は、平成八年度内という完成目標の時期が迫り、また、震災による迂回交通により県道三木三田線が混雑を極め、山陽自動車道の一日も早い完成を図る必要があったが、そのために必要な用地の取得に係る案件が相当残っており、早期解決が求められていた。
ところが、三月二二日に同公社の人事異動の内示があり、四月に兵庫県土地開発公社東播磨事務所用地第一課長が転勤し、同公社の組織の変更も予想されたことから、山陽自動車道の建設促進、総合調整等を担う県としては、同事業が停滞しないよう事務がうまくバトンタッチできるようにするべく、三月中に同公社の説明を聴取し、現状の課題の整理と対策、解決の方向を定めるとともに、同公社の取組みの強化を求めるため、会議を開く必要があった。
そこで、同公社と急遽調整した結果、三月二五日午後四時ころから同公社東播磨事務所で前記五名の他、同公社の担当職員数名が出席し、会議を開いた。会議では、収用案件、境界確定、土地所有者の相続調整、未登記処理等の未処理案件に関して、今までの取組内容、現状、問題点等についての同公社の説明をもとに、今後の取組み、対応策等を協議、検討した。買収地が山の中で境界確定が非常に難しいこと、相続人が一件で二〇数人のものもあり、相続処理がかなり難しいことなど、個々の案件について検討されたが、どれも複雑で困難なものばかりであり、そのため、状況把握、検討に時間を要し、協議が長引き午後六時半を過ぎても終了しなかった。四月まで一週間しかなく、別途日を設定することはできなかったことから、引き続き「大東閣」で会食をしながら、協議した案件で協議が終了しなかった数件について協議を補充し、また、会議のまとめとして、新年度に新しい組織の中でどのような形で買収作業を進めていくかなど更に協議、検討するとともに、同公社の取組みの強化を求めた。
なお、「大東閣」は、会議場所から比較的近く、卓が間仕切りで囲まれた、料金の安い中華料理店であり、また、会食内容も、店の標準的なコース料理であり、酒の量も協議、意見交換に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り、協議の実をあげるのに効果があるものであり、料金の一人当たり単価も七一〇三円であった。
この協議、意見交換等により、早期完成に向けての県の姿勢を同公社に再認識してもらうことができ、同公社は四月以降も取組みを強化した結果、山陽自動車道神戸・三木間は平成八年一一月に供用の運びとなった。
(一〇) 番号20の会食について
番号20の会食は、空港整備課の所掌する業務の執行として行われたものである。
空港整備課の事務は、前記(四)のとおりであり、会議及び会食は、同課の事務に直接関係するものである。すなわち、会食は、平成八年三月二八日、「豊福」花隈店で行われ、相手方出席者は、株式会社日本エアシステム経営企画室事業管理部課長及び日本エアコミューター株式会社企画室次長の二名で、両社の但馬路線運航に係る実務レベルの責任者である。県側は、事務担当の空港整備副課長の被告(19)S、技術担当の同副課長の被告(11)Jのほか、協議内容が但馬路線の運航体制や採算性の確保対策等の事務、技術にわたる広範なものであったため、それぞれ担当の同課長補佐の被告(12)L、被告(21)U及び同課主任を加えて計五名が出席した。
但馬路線は、平成六年の但馬空港開港当初は一日一便の運航であったが、平成七年一〇月に二便化が実現した。しかし、利用率、就航率が予想を下回る結果となったため、運航会社である日本エアコミューター株式会社及びその親会社である株式会社日本エアシステムにおいて一便に戻すという意見も出そうな情勢が生じた。県としては、但馬路線の一日二便の運航体制を堅持する方針であり、そのために県、地元の強い要望を両社に説明するとともに、双方で利用率、就航率、採算性の確保対策等について、事務、技術両面から緊急に協議する必要があった。新年度になると、早い時期から日本エアコミューター株式会社が運航方針を検討するため、それまでの三月中に、両社に対して県、地元の一日二便の運航体制維持の要望を説明し、両社においても同運航体制維持の方針を決定してもらうよう働きかけ、協議する必要があった。年度末で双方とも多忙であり、日程調整の結果、当日、県空港整備課の事務室で前記七名が出席し、会議を開いた。株式会社日本エアシステムの経営企画室事業管理部課長は東京から、日本エアコミューター株式会社の企画室次長は鹿児島から来庁したため、午後三時半ころからの開始となった。
会議では、但馬路線の利用率、就航率、採算性の確保対策等について協議し、県側から但馬路線の運航体制維持を両社に強く要望したが、内容が複雑多岐にわたったことから、十分に議論を尽くしきれないまま午後五時半ころになった。
どうしても三月中に協議を終わらせておく必要があったが、日程調整がつかず、別途日を改めて設定することは困難であったことに加え、二便体制維持については相手方の多大の協力を得なければならない状況にあり、苦労をかけることになることから、接遇も兼ね、引き続き「豊福」で会食をしながら、会議では十分に議論を尽くせなかった但馬路線の運航体制維持に係る県、地元の強い要望の説明と、利用率、就航率、採算性の確保対策等についての協議を補充し、重ねて、但馬路線の運航体制の確保について協力要請を行った。
なお、「豊福」は、県庁から近く、個室のある落ち着いた雰囲気の比較的料金の安い店であり、会食の内容も、店の標準的な価格のコース料理であり、酒の量も協議、協力要請に支障となる程度のものではなく、意思の疎通を図り、協議、要請の実をあげるのに効果があるものであり、料金の一人当たり単価も七二八三円であった。
この協議、協力要請により、利用促進等に関する県、地元の強い意向について両社の理解、認識が得られ、一日二便の運航体制が維持されることになった。
3 番号2、5、6、7、8、9、10、13、17及び18の各会食に係る支出については、前記第二の二5(二)のとおり、被告(4)Aは、兵庫県に対し、右各支出に相当する金額及び右各金額に対する各支出日から返還日までの利息(年利五パーセント)相当額につき、平成九年四月二二日に返還申出をし、同月二三日に当該支出金額相当額五四万四七三三円及び利息相当額二万四七二一円の合計五六万九四五四円を支払ったから、この返還により兵庫県は右各支出による出捐を回復しており、財産的損失を被っていない。
したがって、この支出行為に関して兵庫県の被告らに対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が発生したか否かにかかわらず、右の返還により被告らに対する請求権はないことになるから、原告らのこの点に関する請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないといわなければならない。
4 各被告は、本件各支出について、損害賠償ないし不当利得返還の責任を負わない。
(一) 被告(1)D
前記2のとおり本件各支出は違法とはいえないから、被告(1)に損害賠償責任はない。
また、長につき、専決を任された補助職員が地方公営企業の管理者の権限に属する財務会計上の行為を専決により処理した場合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当であるとする判例(最高裁平成三年一二月二〇日判決・民集四五巻九号一四五五頁)からしても、知事の職にあった被告(1)に損害賠償責任はない。
(二) 被告(2)E
前記一(被告(2)の主張)のとおり、被告(2)に対する訴えは不適法である。
仮に適法であるとしても、前記2のとおり本件各支出は違法とはいえないから、被告(2)に損害賠償責任はない。
また、被告(2)についても、補助機関たる職員の本件各支出に係る事務に対する指揮監督上の義務の違反のないことは右(一)記載の最高裁判決の例によっても明らかであるから、同被告にも同義務違反を理由とする県に対する損害賠償責任はない。
(三) 被告(3)F
前記2のとおり本件各支出は違法とはいえないから、被告(3)に損害賠償責任はない。
また、地方自治法上職務権限が出納長と同一である収入役(同法第一七〇条)につき、収入役が支出命令に基づいて支出をする際の審査は、(1)歳出の会計年度所属区分・予算科目の確認、(2)予算額等との整合性、(3)支払方法の適法性等の点に限定して行われ、支出負担行為については、これに明らかな無効事由が存在するなどといった特段の事由が認められない限り、この点の検討を義務付けられるものではないとする裁判例(大阪高裁平成八年一一月二二日判決・判タ九二七号一一五頁)からしても、出納長の職にあった被告(3)に損害賠償責任はない。
(四) 被告(4)A
前記2のとおり本件各支出は違法とはいえないから、被告(4)に損害賠償責任はない。
(五) 被告(5)ないし被告(21)
前記二(被告(5)ないし被告(21)の主張)のとおり、被告(5)ないし被告(二一)に対する訴えは不適法である。
仮に適法であるとしても、前記2のとおり本件各支出は違法とはいえないから、被告(5)ないし被告(21)に損害賠償責任はない。また、被告(5)ないし被告(21)は、食糧費の支出を伴う行政事務を執行したにすぎず、権利侵害についての故意・過失がなく、また、飲食行為に違法性が存しないから、この点においても損害賠償義務は認められない。
更に、被告(5)ないし被告(21)の本件各支出に関係する飲食は、同被告らの担当職務に関係してなされた相当なものであって、「法律上の原因なくして」利得したとはいえないから、不当利得にも該当しない。また、本件各支出の相手方は各会食がされた店であって、同被告らではない。
第四当裁判所の判断
一 争点1(兵庫県副知事の職にあった被告(2)に対する地方自治法二四二条の二第一頃四号前段に基づく訴えは適法か[被告(2)は「当該職員」に当たるか。]。また、同号後段に基づく訴えは適法か)について
被告(2)は、土木部を所管する副知事であるところ(前記第二の二1(二)記載のとおり争いがない。)、副知事が知事を補佐し、その補助機関たる職員の担任する事務を監督する権限を有する(地方自治法一六七条)からといって、そのことだけでは直ちに「当該職員」に該当するとはいえないが、兵庫県の決裁規程(昭和四二年兵庫県訓令甲第一七号。乙一三)一二条一項は、「知事が決裁すべき事項については、副知事が代理決裁をすることができる。」と定めている。そうすると、本件各会食を行った土木部を所管する副知事である被告(2)は、財務会計上の行為につき本来的に権限を有する知事から、右決裁規程に基づきあらかじめ代理決裁をすることを任されているものであるから、本件各支出につき、地方自治法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」に当たるということができる(この場合、本件各支出のそれぞれについて現実に代理決裁をしたか否かは、「当該職員」に該当するか否かの判断に影響しないと解するのが相当である。これに対し、およそ右のような権限を有しない職員は、右「当該職員」に該当しない。)。これに反する被告(2)の主張は採用することができない。
したがって、被告(2)Eに対する地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づく訴えは適法である(なお、被告(2)は、同人に対する訴えは監査請求を経たとはいえないから不適法であるとも主張するが、前記第二の二5(一)記載の監査請求の内容からすれば、本件各支出につき被告(2)に対しても監査請求がなされているということができるから、右主張は採用することができない。)。
二 争点2(一)(被告(5)ないし被告(21)に対する地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく訴えは適法か)について
1 争点2(一)(被告(5)ないし被告(21)に対する訴えは監査請求を経たということができるか)について
原告らのした監査請求は、前記第二の二5(一)記載のとおり、本件各支出につき、「支出手続担当者及び飲食者らは、上記違法・不当な公金の支出により兵庫県が被った損害を賠償する責任がある。」などと主張して、「飲食者及び支出手続担当者に対し、違法・不当に支出された食糧費を兵庫県に返還させること」などを求めるものであり、「飲食者」に対して食糧費を兵庫県に返還させることを求めることを含むことは明らかであるから、本件各会食の出席者(飲食者)であることに争いのない被告(5)ないし被告(21)に対する訴えについて、監査請求を経たということができる。これに反する被告(5)ないし被告(21)の主張は採用することができない。
2 争点2(二)(「当該職員」に該当しない職員の職務行為を理由とする住民訴訟は適法か)及び同(三)(被告(5)ないし被告(21)は「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に該当するか)について
地方自治法二四二条の二第一項四号後段にいう「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」とは、当該訴訟の原告により訴訟の目的である地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務があると主張されている者をいうと解するのが相当であるところ、被告(5)ないし被告(21)は、兵庫県が有する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を履行する義務があると原告らに主張されている者であるから、右「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」に当たるというべきである。
被告(5)ないし被告(21)は、この点について、「当該職員」に該当しない(すなわち財務会計上の権限を何ら有しない)職員の職務行為に関しては、地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく代位請求は認められない旨主張する。しかし、同号後段の文言において、財務会計上の権限を有しない職員は「相手方」に含まないとされているわけではなく、また、財産の管理を怠る事実という場合の財産には、地方公共団体が有する損害賠償請求権や不当利得返還請求権も含まれると解され、地方公共団体が、財務会計上の行為又は怠る事実と関係なく、私人に対して損害賠償請求権や不当利得返還請求権を取得したにもかかわらず、これを行使しない場合、当該地方公共団体の住民は右私人を「相手方」として同号後段に基づく訴えを提起することができると解される(提起できないとする根拠はない。)のであるから、「当該職員」に当たらない職員の職務行為に関して右職員を同号後段の「相手方」から除外する理由は見出せない。
以上要するに、被告(5)ないし被告(21)に対する地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく訴えは適法というべきであって、争点2(二)及び(三)についての右各被告の主張は採用することができない。
三 争点3(本件各支出について、各被告は損害賠償ないし不当利得返還の責任を負うか)について
食糧費は、通常は接遇という場で支出することを目的とするものではないが、行政事務、事業の執行上、外部者の参加を求めて会合を持つ必要がある場合に、これと同時に又は引き続いて、会合への出席や助言の提供等に対する儀礼の趣旨の接遇を兼ねて節度ある会食をすることも、なお食糧費の対象の範囲に含まれると解され、会合の趣旨、出席者等に照らし、社会通念上儀礼の範囲にとどまる限りは違法とはいえないが、儀礼の範囲を逸脱すれば、その逸脱する限度で違法になるというべきである。原告ら及び被告らの各主張は、右説示に反する限度で、いずれも採用することができない。
以下、右の観点に立って、本件各支出のそれぞれについて、違法性の有無及び違法である場合の各被告の責任の有無を検討する(但し、被告(4)Aによって支出金額相当額等が返還された番号2、5、6、7、8、9、10、13、17及び18の各会食に係る支出については、最後に検討する。)。
1 番号1の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の3の1~3、被告(6)C)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号1の会食は、平成八年三月五日、「あさの」において、兵庫県側からは土木部道路建設課高速道路室(兵庫県内の高速道路の計画、建設促進及び総合調整、並びに明石海峡大橋、関連道路の建設促進及び総合調整や、公団から委託を受けた用地買収等に関する事務をつかさどっている。)の事務担当の副課長である被告(6)C及び明石海峡大橋技術担当の副課長である被告(5)Bの二名、その相手方として、北海道渡島支庁地域政策室長及び同室地域政策課企画係主事の二名、合計四名が出席して行われたものであり、番号1の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
(2) 北海道庁では、青函道路橋の建設構想を検討しており、明石海峡大橋の建設経緯を参考にするため、兵庫県側に来庁の対応依頼をし、兵庫県側としても、紀淡連絡道路等今後の大規模プロジェクトにつき、北海道の道路建設のことが参考になることから、意見(情報)交換の場が設定された。
右意見(情報)交換は、高速道路室の事務室で当日午後四時ころから始められたが(午後三時ころから始める予定であったが、相手方の到着が一時間ほど遅れた。)、夕食時間帯になっても終わらず、また、相手方には翌日のスケジュールがあったことから、遠方からの来訪者に対する接遇も兼ねて、会食をしながら「あさの」で意見(情報)交換等が行われた。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の1項記載のとおり、合計三万五三五〇円である(一人当たり八八三七円)。
(二) 右認定事実に基づき番号1の支出の違法性につき検討するに、道路橋等の大規模事業について他の自治体職員と意見(情報)交換をすることは、行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、また、直前の意見(情報)交換が長引いたこと等の事情に照らせば、役所における会議に引き続いて会食を伴う会合を行うこと自体も、違法とまではいえない。
しかし、番号1の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることにもかんがみると、会合の趣旨、出席者等に照らし、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり八〇〇〇円(合計三万二〇〇〇円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計三三五〇円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号1の支出のうち三三五〇円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の責任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙二の1・2)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った三三五〇円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号1の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号1の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、被告(4)Aが一部違法な番号1の支出についての支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部道路建設副課長(明石海峡大橋担当)の被告(5)B及び土木部道路建設副課長(高速道路担当)の被告(6)Cは、いずれも、右会食に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告らの意思に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告らは、当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものである(同人が具体的な金額まで事前に明示したか否かはともかくとして、同人は、本件訴訟で対象となっている支出については、事務の所管課から事前協議を受け、これを適正と判断した旨陳述している〔乙二四〕ことにも照らせば、同人は、黙示的にせよ、実際の番号1の支出の額以上の金額についてあらかじめ了承していたものとみることができる。)から、兵庫県が被告(5)B及び被告(6)Cに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(5)B及び被告(6)Cは、いずれも、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち右各被告が費消した金額相当額につき悪意の受益者と同視されるベき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する右被告らの主張は採用することができない。)。そして、違法支出分三三五〇円を参加者四名で除すと、一人当たりの金額は八三七円(一円未満切捨て)となるから、右各被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が右各被告に対し右各請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((1)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、それぞれ、右各八三七円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
2 番号3の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の5の1~3、被告(7)G)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1)番号3の会食は、平成八年三月六日、「琴」において、兵庫県側からは、土木部港湾課長補佐(港湾課は、県管理の港湾及び海津の管理運営、占使用許可、改良工事及び災害復旧工事や、公有水面埋立等に関する事務をつかさどっている。)の被告(7)G、その相手方として、新西宮ヨットハーバー株式会社専務取締役及び同社建設部次長兼建設課長の二名、合計三名が出席して行われたものであり、番号3の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
相手方の新西宮ヨットハーバー株式会社は、兵庫県が最大の株主であるいわゆる第三セクターで、その社長には兵庫県副知事が就任しており、相手方出席者の同社専務取締役及び建設部次長兼建設課長は、兵庫県土木部からの出向者である。
(2)ア 兵庫県は、α区内のβにある六つの大学及びYMCAのヨット保管庫(艇庫)計七棟を、沖にある新西宮ヨットハーバー株式会社が管理する新西宮ヨットハーバー内に移転集約するため、その必要性、事情を同社に説明し理解と協力を得るため、会議への出席を同社に依頼し、会議を平成八年三月六日に設定した。
イ 右会議開催の背景としては、おおむね以下のような事情があった。
βは、阪神間に残された貴重な自然の国有海浜地であるのに、艇庫敷地として特定の者(六大学とYMCA)に利用されていたところ、県としては、これをもっと不特定多数の人の利用に供し得るようにするため、右艇庫を新西宮ヨットハーバー内に移転し、そこに集約させる方針でいた。具体的には、新西宮ヨットハーバー株式会社が新西宮ヨットハーバー内に大きな艇庫を一棟建てて各大学に賃貸するという形態を計画していた。ところが、大学側から、阪神・淡路大震災により艇庫が被災したため艇庫を元の場所で建て替えたい、各大学が個別に建てたい旨の申入れがあったので、県側としては、新西宮ヨットハーバー内に各大学が個別に艇庫を建てる、年度内に請負契約が締結できるようにするというように計画を変更し、その方向で調整することとなった。何度か協議がなされ、新西宮ヨットハーバー株式会社建設部次長からは一応の了解が得られたが、大学側が新西宮ヨットハーバー区域内に艇庫を建てるため同社と具体的に協議をしたところ、実際には同社の上層部までのコンセンサスが得られていないことが分かった。そこで、県側は、急遽、実権のある同社専務取締役を交えた会議を開くことにした。
ウ 右会議は、新西宮ヨットハーバー株式会社の都合もあり、午後四時ころから港湾課の事務室で始められた。なお、この事務室での会議には右(1)記載の三名の他に、兵庫県側から港湾課の担当者一名が出席した。
右会議では、各大学の艇庫の配置、面積、料金等、移転のための条件について意見交換がなされ、県側からは集約について相手方に強く協力要請を行ったが、県の方が当初計画を大幅に変更したことも根底にあって、会議が難航し、長引いて夕食時間帯になっても終わらなかった。国立大学では、建替えの予算が措置済みであり、未契約のまま次年度に繰り越すことは困難で、どうしても年度内に工事請負契約を締結したいという意向が強かったこと、国立大学以外の他の大学に対しても移転のための条件を早期に提示する必要があったこと、各大学とも学生のクラブ活動を早期に復活させたいと考えていたことから、日を変えて再度会議を行うということはできないとの判断で、引き続き「琴」で意見交換、協力要請が行われた。
エ その後、国立二大学においては平成八年三月二一日に工事請負契約を締結することができ、艇庫が新西宮ヨットハーバー内に建設されるとともに、他の大学についても艇庫の移設の条件等すべて合意に達し、誘導集約事業が大きく前進した。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の3項記載のとおり、合計三万一〇〇四円である(一人当たり一万〇三三四円)。
(二) 右認定事実に基づき番号3の支出の違法性につき検討するに、国有海浜地の利用に絡み、艇庫の移転問題を調整することは、行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、また、直前の会議が長引いたこと等の事情に照らせば、役所における会議に引き続いて会食を伴う会合を行うこと自体も、違法とまではいえない。
しかし、番号3の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることに加え、会食の相手方である新西宮ヨットハーバー株式会社は、株式会社とはいえ、兵庫県が最大の株主であるいわゆる第三セクターで、その社長には兵庫県副知事が就任しており、相手方出席者の同社専務取締役及び建設部次長兼建設課長は、兵庫県土木部からの出向者であって、兵庫県職員に準ずる立場にあるとも考えられることにかんがみると、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり六〇〇〇円(合計一万八〇〇〇円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計一万三〇〇四円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号3の支出のうち一万三〇〇四円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の貴任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙三の1・2)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った一万三〇〇四円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号3の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号3の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、被告(4)Aが一部違法な番号3の支出についての支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部港湾課長補佐の被告(7)Gは、右会食に参加して飲食をしたものであり、右会合の実際の飲食内容は同被告の意思に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告は、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるから、兵庫県が被告(7)Gに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(7)Gは、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち同被告が費消した金額相当額につき悪意の受益者と同視されるべき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する同被告の主張は採用することができない。)。そして、違法支出分一万三〇〇四円を参加者三名で除すと、一人当たりの金額は四三三四円(一円未満切捨て)となるから、同被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が同被告に対し右請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((1)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、右四三三四円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
3 番号4の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の6の1~3、被告(9)I)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号4の会食は、平成八年三月六日、「佐和」において、兵庫県側からは、土木部港湾課長の被告(8)H及び同副課長の被告(9)Iの二名、その相手方として、姫路埠頭株式会社業務部長、合計三名が出席して行われたものであり、番号4の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
相手方の姫路埠頭株式会社は、兵庫県も出資している第三セクターである。
(2)ア 兵庫県は、姫路港の利用促進を図るための「姫路港ポートセールス推進協議会」の設置に関し、姫路埠頭株式会社に設立趣旨の説明及び協力要請等をするため、会議を平成八年三月六日に設定した。
イ 右会議開催の背景としては、おおむね以下のような事情があった。
姫路港は特定重要港湾であるが、貨物取扱量が伸び悩んでいたことから、港湾の振興を図るため、ハード面の整備とともに、ソフト面においてもポートセールス(姫路港の利用勧誘)を積極的に行う必要があった。そこで、兵庫県としては、姫路港の利用促進を図る上から、国内・海外の荷主、船社、港務機関等に対して姫路港の宣伝、勧誘をするポートセールス等を行うため、県、姫路市、姫路商工会議所、姫路港運協会及び姫路埠頭株式会社で構成する「姫路港ポートセールス推進協議会」を設置することを計画し、その実現のための取組みをしていたが、民間の中で最も恩恵を受けることになり、そのため最も中心的な役割を担うべきであると考えられた姫路埠頭株式会社から、人的支援及び負担金の協力の約束を取り付ける必要があり、その上で、商工会議所や港運協会に協力を依頼する必要があった。そこで、県は、同社に対して協力要請等をするための会議を開くこととした。
ウ 右会議は、午後三時ころから港湾課の事務室で前記三名で始められた。
右会議では、兵庫県側が、姫路港ポートセールス協議会設立の趣旨、同協議会を運営していくためには姫路埠頭株式会社の人的支援及び負担金が必要であること等を説明し、協力要請をし、両者の間で協議がされた。番号4の会食は、右会議の後に行われた。
エ その後、姫路埠頭株式会社の人的支援及び金銭的支援の下、平成八年四月九日に、前記協議会及び実務部隊としての「ポートセールス推進チーム」が発足した。
(3) 右会食場所の「佐和」は、カウンター席(一五、六席程度)のみの、いわゆる「鰻の寝床」的な構造で、カウンターのところに料理を盛った大皿が並んでいるような店であり、店の者は六〇歳ないし七〇歳くらいの女性が二人である。
右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の4項記載のとおり、酒類八〇〇〇円(ビール四本二〇〇〇円、日本酒四本二〇〇〇円、焼酎一本四〇〇〇円)及び氷一五〇〇円を含む合計一万九六〇〇円である(一人当たり六五三三円)。そこで出された食べ物は、おでん、小鉢、たこ、漬物であった。
(二) 被告ら(被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(8)H、同(9)I)は、姫路港の将来の運営状況等についても協議が及ぶなど、会議での意見交換、協議が長引き、夕食時間帯になっても、協議が不十分で終了しなかったところ、同協議会は平成八年度当初から発足させるというのが県の方針であったこと、相手方も多忙で日を変えて再度会議を行うことが非常に困難であったことから、どうしても当日中に姫路埠頭株式会社から協力の約束を取り付ける必要があったため、会食をしながら引き続き食事処「佐和」で意見交換、協力要請を行ったものであり、会食の場では、特に運営資金の負担を中心に協力要請を行ったが、あわせて将来の姫路港のあり方や活性化方法についても意見交換を行った旨主張し、被告(9)Iはこれに沿う供述をする。しかしながら、カウンター席が一五、六席のみという店の構造、三人でビール四本、日本酒四本、焼酎一本という飲酒量や食べ物の内容等に照らせば、夕食をとったというより、「一緒に酒を飲んだ」というように評価されてもやむを得ない(右会食に出席した被告(9)Iもこのこと自体は認める旨の供述をしている。)から、番号4の会食は、直前に行われていた協議を続けることが主目的ではなく、飲酒・懇談それ自体が主目的であったといわざるを得ない(協議が主目的であった旨の被告(9)Iの供述は採用することができない。「会食」という用語自体も、必ずしも適切でないことになる。)。
そうすると、番号4の支出は、その全額が違法な支出であるというべきであり、兵庫県は、右違法な支出によって一万九六〇〇円の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の貴任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙三の1・3)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った一万九六〇〇円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号4の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号4の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが「会食」の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、被告(4)Aが違法な番号4の支出についての支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部港湾課長の被告(8)H及び土木部港湾副課長の被告(9)Iは、いずれも、右「会食」に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告らの意患に基づき決められたものと推認することができ、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるとはいえ、前記店の構造、飲酒量、食べ物の内容に照らせば、右「会食」は、飲酒・懇談それ自体が主目的であったことは、右各被告自身、容易に認識することができたというべきであるから、右各被告は、兵庫県に対し、一万九六〇〇円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならず、兵庫県が右各被告に対し右損害賠償請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((1)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、不真正連帯債務の関係となる。)。
4 番号11の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の9の1~3、二〇、被告(12)L)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号11の会食は、平成八年三月一八日、「金春」において、兵庫県側からは、土木部空港整備課長(空港整備課は、播磨空港及び神戸空港の整備計画の推進、関西国際空港の建設の推進、県立但馬空港〔飛行場〕の管理運営や、大阪国際空港の周辺整備等に関する事務をつかさどっている。)の被告(10)K、土木部空港整備副課長の被告(11)J及び土木部空港整備課長補佐の被告(12)Lの三名、その相手方として、姫路商工会議所企画調査課長及び同課員の二名(県、播磨地域一一市三一町及び経済団体等約二八〇団体で構成され、播磨空港建設に向けて、国への要望活動や広報活動を行う「播磨空港建設促進協議会」の事務局の実務担当者)、合計五名が出席して行われたものであり、番号11の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
(2)ア 兵庫県は、播磨空港建設促進協議会の平成八年度の活動方針について協議するとともに、播磨空港に対する関係各商工会議所の考え方についての情報収集をするため、会議を平成八年三月一八日に設定した。
イ 右会議開催の背景としては、おおむね以下のような事情があった。
播磨空港建設は県政の重要課題の一つであるところ、第六次空港整備五箇年計画では「調査検討し必要に応じて整備を図る」という表現で取り上げられたが、運輸省の認識としては未だ事業化に結び付くものではなかった。そこで、兵庫県としては、平成八年度から一二年度までの第七次空港整備五箇年計画の策定を前にして、播磨空港の事業着手のために、同計画に着工を前提とした位置付けを得るべく、平成八年度は年度早々から国に強力に働きかけていく必要があった。
なお、播磨空港建設促進協議会は、例年五月に総会を開催し、そこで確定した当該年度の活動方針に基づき国に対する要望活動を行うことになっていたため、三月中に次年度(平成八年度)の活動方針を協議し、一定の目処をつける必要があった。また、従前は、右協議会のみで要望していたところ、平成八年度は、それに加えて各商工会議所としても要望活動をしてもらう必要があった。
ウ 右会議は、午後三時ころから空港整備課の事務室で前記五名が出席して始められた。
右会議では、播磨空港建設促進協議会の平成八年度の活動方針について協議するとともに、播磨空港に対する関係各商工会議所の考え方について相手方課長等から説明がなされ、意見交換がなされたが、夕食時間帯になっても協議が終了しなかったところ、同協議会の総会までの準備の日程上余裕がなかったこと及び相手方課長等も年度末で多忙であり、再度日を改めて会議を行うことは困難であったことから、引き続き「金春」で、日頃の事務局としての協力に対する謝意も含め、会食をしながら、活動方針の協議及び各商工会議所に対する働きかけ方についての意見交換が行われた。
エ その後、県、地元一体となって国に対する要望活動が行われ、平成八年一二月に閣議決定された第七次空港整備五箇年計画では、計画、地元条件等が整ったものについて、毎年度予算の範囲内で順次着手するという位置付けを得た。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の11項記載のとおり、合計六万〇一〇二円である(一人当たり一万二〇二〇円)。
(二) 右認定事実に基づき番号11の支出の違法性につき検討するに、県政の重要課題である播磨空港建設に関し、播磨空港建設促進協議会の活動方針の協議及び各商工会議所に対する働きかけ方についての意見交換を行うことは、行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、また、直前の協議、意見交換が長引いたこと等の事情に照らせば、同協議会事務局としての協力に対する謝意も含め、役所における会議に引き続いて、会食を伴う会合を行うこと自体も、違法とまではいえない。
しかし、番号11の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることにもかんがみると、会合の趣旨、出席者等に照らし、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり八〇〇〇円(合計四万円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計二万〇一〇二円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号11の支出のうち二万〇一〇二円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の責任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙四の1・2)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った二万〇一〇二円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3)番号11の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号11の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、V又は被告(4)Aが一部違法な番号11の支出についての支出負担行為又は支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部空港整備課長の被告(10)K、土木部空港整備副課長の被告(11)J及び土木部空港整備課長補佐の被告(12)Lは、いずれも、右会合に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告らの意思に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告らは、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるから、兵庫県が被告(10)K、被告(11)J及び被告(12)Lに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(10)K、被告(11)J及び被告(12)Lは、いずれも、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち右各被告が費消した金額相当額につき悪意の受益者と同視されるべき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する右被告らの主張は採用することができない。)。そして、違法支出分二万〇一〇二円を参加者五名で除すと、一人当たりの金額は四〇二〇円(一円未満切捨て)となるから、右各被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が右各被告に対し右各請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((1)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、それぞれ、右各四〇二〇円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
5 番号12の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の2の1~3、二一、被告(13)M)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号12の会食は、平成八年三月二一日、「棲外楼」において、兵庫県側からは土木部交通政策副室長(交通政策室は、「ひょうご21世紀交通ビジョン」の推進、県内の鉄軌道の整備促進、運輸事業振興助成、地方バス路線の運行維持対策や、鉄道災害復旧費への助成等に関する事務をつかさどっている。)の被告(13)M、土木部交通政策室課長補佐の被告(14)N、主査二名及び事務吏員一名の五名、その相手方として、鉄道整備基金業務部助成二課補佐、同課技術・安全係長及び同課地方鉄道係長の三名、合計八名が出席して行われたものであり、番号12の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
(2)ア 兵庫県は、鉄道整備基金と合同で、平成八年一月二三日から三月二二日にかけて、一事業者当たり平均四日間の日程で、阪神・淡路大震災で被災した鉄道事業者八社の災害復旧事業に係る補助金について、補助金交付申請のとおりに適正に事業が執行されているかどうかを現地で確認する現地審査の手続(この審査の結果をふまえて補助金の額を最終的に確定する。)を行った。
なお、鉄道整備基金は、鉄道整備基金法に基づく法人で、新幹線鉄道、主要幹線鉄道及び都市鉄道の計画的かつ着実な整備を促進するとともに、鉄道の安全性及び利便性の向上を図るための施設の改良、業務運営の能率化その他鉄道事業の健全な発達を図る上で必要となる事業又は措置を支援するため、鉄道事業者等に対して補助金の交付、無利子資金の貸付けその他の助成を総合的かつ効率的に行うことを目的としている。
イ 兵庫県は、二か月にわたる右現地審査がほぼ完了する段階となった時点で、全審査を通じての指導・協力に対する謝意を表す趣旨も含め(鉄道事業者に対する災害復旧事業に係る補助は、県にとっては初めてのことであったので、補助金交付事務の執行や現地審査について、基金の指導を得ながらこれを行った。)、現地審査の総括や補助金交付事務の執行、鉄道整備事業の促進等についての意見交換、情報収集をするため、番号12の会食を平成八年三月二一日に設定した。なお、昼間は現地審査のため時間がとれないことから、午後六時過ぎからとされた。
ウ 右会食開催の背景には、以下のような事情もあった。
当時、県では、片福連絡線の建設、JR福知山線の複線化、JR播但線等の電化高速化、神戸電鉄の複線化などの鉄道整備に取り組んでいたが、利用者負担の原則だけでは整備が困難なため、県・市町が鉄道事業者に助成を行い整備を促進しようと考えていたところ、鉄道整備は全国的にも事例が少なく、積極的に情報収集を行わなければならない状況にあった。
エ 右会食では、災害復旧事業における鉄道高架下の店舗等権利者の営業補償の取扱い、現在の基準上設置しなければならない設備の増加費用の取扱い、鉄道事業者が黒字になった場合の補助金の返還等についての疑問点をはじめ、現地審査の結果についての同基金側の総括的な考え方等について、意見交換が行われた。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の12項記載のとおり、合計六万八四二〇円である(一人当たり八五五二円)。
(二) 右認定事実に基づき番号12の支出の違法性につき検討するに、補助金に関する現地審査の総括や補助金交付事務の執行、鉄道整備事業の促進等についての意見交換、情報収集をするとともに、右現地審査等についての指導・協力に対する謝意を表す趣旨も含めて会食を伴う会合を行うこと自体は行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、昼間は現地審査のため時間がとれないこと等の事情も考慮すれば、右会合を通常の動務時間外に庁舎外で行うこと自体も、違法とまではいえない。
しかし、番号12の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることにもかんがみると、会合の趣旨、出席者等に照らし、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり八〇〇〇円(合計六万四〇〇〇円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計四四二〇円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号12の支出のうち四四二〇円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の責任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙五の1・2)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った四四二〇円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号12の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号12の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、V又は被告(4)Aが一部違法な番号12の支出についての支出負担行為又は支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部交通政策副室長の被告(13)M及び土木部交通政策室課長補佐の被告(14)Nは、いずれも、右会食に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告らの意患に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告らは、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるから、兵庫県が被告(13)M及び被告(14)Nに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(13)M及び被告(14)Nは、いずれも、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち右各被告が費消した金額棺当額につき悪意の受益者と同視されるべき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する右被告らの主張は採用することができない。)。そして、違法支出分四四二〇円を参加者八名で除すと、一人当たりの金額は五五二円(一円未満切捨て)となるから、右各被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が右各被告に対し右各請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((一)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、それぞれ、右各五五二円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
6 番号14の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の8の1~3、二二、被告(16)P)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号14の会食は、平成八年三月二一日、「富久喜」において、兵庫県側からは、土木部砂防課(砂防、地すべり防止や、急傾斜地の崩壊による災害の防止等に関する事務をつかさどっている。)の技術担当課長補佐である被告(17)Q、事務担当課長補佐である被告(16)P及び事務担当主査の三名、その相手方として、建設省河川局砂防部傾斜地保全課総務係長、同課急傾斜係長及び伺課地すべり係主任の三名、合計六名が出席して行われたものであり、番号14の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
(2)ア 兵庫県は、阪神・淡路大震災により生じた被災箇所の防災工事を、国庫補助事業として実施していた。予算上、平成六年度予算(補正)を工期の関係上平成七年度に繰り越していたが、工事期間の延長等により、もう一年繰り越し、「事故繰越」(箇所八件。繰越総額約二〇億円)をせざるを得なくなった。
「事故繰越」とは、甲年度より乙年度へ繰り越した歳出予算の経費の金額について、乙年度において避け難い事故のためにその繰越事業に係る事業等が完成せず、乙年度内に支出が終わらない場合に、これを事故繰越として更に丙年度へ繰り越すことができる制度であり、その手続としては、県が繰越調書を建設大臣に提出し、建設大臣はこれを審査し、必要と認めたときは大蔵大臣に繰越調書を提出し、大蔵大臣の承認を得ることになる。
事故繰越は、右のようにこれが認められると会計年度が二年間延びるというもので、会計年度独立の予算原則からして異例のことであるため、大蔵省の理解を得る対策として、まず、主管省庁である建設省との間で事故繰越の理由等について十分な調整をしておく必要があり、そのため、県は、総務係長等の建設省係官に平成八年三月二一日、二二日に来庁してもらい、工事現場の視察及び協議等を行うこととした。
イ 平成八年三月二一日、午後一時三〇分ころから、被告(17)Q課長補佐の案内で、前記建設省各係官による防災工事の現場視察がなされ、午後四時ころからは、土木部砂防課内で、課長補佐の被告(一六)P及び担当主査も加わり、合計六名で、事故繰越調書、設計図面等を見ながら、西宮市γやε等の事故繰越対象の工事箇所毎に問題点や今後の対応策、事故繰越の理由等について協議を行ったが、午後七時ころになっても、繰越理由等についての意見がまとめきれず、協議が終了しなかった。
平成八年度への事故繰越の承認を得るためには日程的に余裕がなく、もし大蔵大臣の承認が得られなければ、建設省に新たな事業として国庫補助事業の申請をやり直す必要が生じ、震災復旧が遅れるおそれがあること、また、建設省係官も年度末で多忙であり(翌二二日の昼には帰京)、改めて協議の日時を設定することはできないことから、県としては当日中に協議を終了させておきたかったので、会議の不十分なところを補うため引き続き「富久喜」で会食をしながら繰越理由や今後の工程等の協議を行った。
ウ その後、前記八件すべてにつき事故繰越が認められ、その結果、これらの防災工事も平成八年度にはすべて完成した。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の14項記載のとおり、合計五万四九〇八円である(一人当たり九一五一円)。
(二) 右認定事実に基づき番号14の支出の違法性につき検討するに、主管官庁であり、大蔵省に対して事故繰越の理由の説明をする立場にある建設省の係官との間で、防災工事の事故繰越につき協議をすることは、行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、また、直前の会議が長引いたこと等の事情に照らせば、役所における会議に引き続いて会食を伴う会合を行うこと自体も、違法とまではいえない。
しかし、番号14の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることにもかんがみると、会合の趣旨、出席者等に照らし、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり八〇〇〇円(合計四万八〇〇〇円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計六九〇八円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号14の支出のうち六九〇八円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の責任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙六の1・2)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った六九〇八円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号14の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号14の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、V又は被告(4)Aが一部違法な番号14の支出についての支出負担行為又は支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部砂防課長補佐の被告(16)P及び同じく土木部砂防課長補佐の被告(17)Qは、いずれも、右会食に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告らの意思に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告らは、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるから、兵庫県が被告(16)P及び被告(17)Qに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(16)P及び被告(17)Qは、いずれも、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち右各被告が費消した金額相当額につき悪意の受益者と同視されるべき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する右被告らの主張は採用することができない。)。そして、違法支出分六九〇八円を参加者六名で除すと、一人当たりの金額は一一五一円(一円未満切捨て)となるから、右各被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が右各被告に対し右各請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((一)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、それぞれ、右一一五一円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
7 番号15の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の7の1~3、被告(9)I)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号15の会食は、平成八年三月二一日、「あさの」において、兵庫県側からは、土木部港湾副課長の被告(9)I及び土木部港湾課長補佐の被告(7)Gの二名、その相手方として、新西宮ヨットハーバー株式会社専務取締役及び同社総務部次長兼総務課長の二名、合計四名が出席して行われたものであり、番号15の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
相手方の新西宮ヨットハーバー株式会社は、前記2(一)(1)のとおり、兵庫県が最大の株主であるいわゆる第三セクターで、その社長には兵庫県副知事が就任しており、相手方出席者の同社専務取締役及び建設部次長兼建設課長は、兵庫県土木部からの出向者である。
(2)ア 兵庫県は、新西宮ヨットハーバー株式会社に対し、西宮浜北護岸のプレジャーボートの移転の受入れの要請と、係留料金等の条件の緩和の要請を行うため、会議を平成八年三月二一日に設定した。
イ 右会議開催の背景としては、おおむね以下のような事情があった。阪神・淡路大震災により被災した西宮浜北護岸にはプレジャーボートが係留されていたが、同護岸の物揚場修復工事に支障となるため移転させる必要があった。県は、移転先の一つである新西宮ヨットハーバー株式会社に、移転するプレジャーボートのための優先枠の確保を要請していたが、係留料金等について意見の相違があり、移転交渉が難航していた。
そのため、同護岸の物揚場工事の平成七年度における実施は困難となったので、平成八年度における整備のための国に対する予算要求との関係もあり(平成七年度予算に計上されていた調査費は流れることとなった。)、平成七年度中に平成八年度における一定の方向を見出だす必要があった。また、同護岸に無許可で新しい桟橋を設置したプレジャーボート所有者が、県の撤去勧告に対し、使用料の軽減を要望するとともに撤去勧告には応じられないとする旨の回答をしていた。また、新西宮ヨットハーバー株式会社の優先枠の確保期限は三月末までとなっていた。
ウ 右会議は、午後三時ころから港湾課の事務室で、前記四名に港湾課の担当者一名が加わって始められた。会議では、複数の条件を一つずつ詰めていったことから意見調整に時間がかかり、午後六時を過ぎても協議が終了しなかった。前記イのとおり平成七年度内に一定の方向を見出す必要があり、また、同年度内に再度日を改めて会議を行うことは困難であったため、引き続き前記四名で「あさの」で会食をしながら、プレジャーボートの移転先引受けや係留料金等、移転引受けに伴う条件の緩和について協議、協力要請が行われた。
エ その後、新西宮ヨットハーバー株式会社は、四月以降のプレジャーボートの引受けを了解した(但し、係留料金軽減については了解していない)。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の15項記載のとおり、合計三万五二九八円である(一人当たり八八二四円)。
(二) 右認定事実に基づき番号15の支出の違法性につき検討するに、護岸の物揚場修復工事に支障となるプレジャーボートの移転問題につき、引受先に協力要請をすることは、行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、また、直前の会議が長引いたこと等の事情に照らせば、役所における会議に引き続いて会食を伴う会合を行うこと自体も、違法とまではいえない。
しかし、番号15の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることに加え、会食の相手方である新西宮ヨットハーバー株式会社は、株式会社とはいえ、兵庫県が最大の株主であるいわゆる第三セクターで、その社長には兵庫県副知事が就任しており、相手方出席者の同社専務取締役及び建設部次長兼建設課長は、兵庫県土木部からの出向者であって、兵庫県職員に準ずる立場にあるとも考えられることにかんがみると、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり六〇〇〇円(合計二万四〇〇〇円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計一万一二九八円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号15の支出のうち一万一二九八円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の責任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙三の1・4)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った一万一二九八円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)今井融幸は、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号15の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号15の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、被告(4)Aが一部違法な番号15の支出についての支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部港湾副課長の被告(9)I及び土木部港湾課長補佐の被告(7)Gは、いずれも、右会食に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告らの意思に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告らは、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるから、兵庫県が被告(9)I及び被告(7)Gに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(9)I及び被告(7)Gは、いずれも、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち右各被告が費消した金額相当額につき悪意の受益者と同視されるべき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する右被告らの主張は採用することができない。)。そして、違法支出分一万一二九八円を参加者四名で除すと、一人当たりの金額は二八二四円(一円未満切捨て)となるから、右各被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が右各被告に対し右各請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((一)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、それぞれ、右二八二四円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
8 番号16の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の10の1~3、二〇、被告(12)L)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号16の会食は、平成八年三月二一日、「豊福」花隈店において、兵庫県側からは土木部次長の被告(18)R、土木部空港整備課長の被告(10)K、土木部空港整備副課長の被告(19)S及び土木部空港整備課長補佐の被告(12)Lの四名、その相手方として、関西国際空港株式会社調整部次長、環境対策課長及び同課調査係長の三名、合計七名が出席して行われたものであり、番号16の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
(2)ア 兵庫県は、関西国際空港の開港に伴い淡路地域(特に同地域南部)で予想以上の電波障害、騒音等が発生したという問題の解決のため、関西国際空港株式会社に対し、強く働きかける(要望する)ため、同社との会議を平成八年三月二一日に設定した。
イ 右会議開催の背景としては、おおむね以下のような事情があった。
関西国際空港の開港に伴い右のような問題が発生したため、県としては、地元から、関西国際空港株式会社に対してこの問題の解決に向けて強く働きかけるよう求められており、また、関西国際空港二期事業や神戸空港の事業を控え、淡路地域の住民感情への対策に特に留意し、同問題の解決を図る必要があった。なお、関西国際空港株式会社側の担当課長である環境対策課長は平成八年一月、二月と空席であった。
ウ 右会議は、出席者が多忙で他の日時では調整がつかず、当日午後四時三〇分ころから県土木部次長室で前記七名が出席して始められた。
右会議では、県側が、相手方会社に対し、地元の現状を説明し、電波障害、騒音等の対策の実施を強く要望したが、被害状況に対する認識にかなりの差があり、同社は被害対策にかなり厳しい態度であったため、県側は、地元の現状を十分理解してもらうことに時間を費やした。そして、会議の開始が遅くなったこともあり、午後五時三〇分ころになっても協議は終了しなかった。県と地元の要望を同社の平成八年度事業執行方針の中に取り上げてもらうためには、同方針が決定する前の三月中に協議を終わらせておく必要があったが、相手方も年度末で多忙であり、再度日を改めて会議を行うことは困難であったため、引き続き「豊福」で、会食をしながら、要望や意見交換が行われた。
エ その後、関西国際空港株式会社は、県側の要望に応えて電波障害対象工事についての基準を弾力的に運用し、平成八年度中に約八〇〇〇戸につき同工事を完了した。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の16項記載のとおり、合計九万〇二四八円である(一人当たり一万二八九二円)。
(二) 右認定事実に基づき番号16の支出の違法性につき検討するに、関西国際空港開港に伴う電波障害や騒音等の問題につき、その解決を図るために関西国際空港株式会社に対して要望をし、意見交換をすることは、行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、また、直前の会議が長引いたこと等の事情に照らせば、役所における会議に引き続いて、会食を伴う会合を行うこと自体も、違法とまではいえない。
しかし、番号16の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることにもかんがみると、会合の趣旨、出席者等に照らし、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり八〇〇〇円(合計五万六〇〇〇円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計三万四二四八円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号16の支出のうち三万四二四八円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の責任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙七の1~3)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った三万四二四八円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号16の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号16の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、V又は被告(4)Aが一部違法な番号16の支出についての支出負担行為又は支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木部次長の被告(18)R、土木部空港整備課長の被告(10)K、土木部空港整備副課長の被告(19)S及び土木部空港整備課長補佐の被告(12)Lの四名は、いずれも、右会食に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告らの意思に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告らは、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるから、兵庫県が被告(18)R、被告(10)K、被告(19)S及び被告(12)Lに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(18)秋元悪一、被告(10)K、被告(19)S及び被告(12)Lは、いずれも、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち右各被告が費消した金額相当額につき悪意の受益者と同視されるべき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する右被告らの主張は採用することができない。)。そして、違法支出分三万四二四八円を参加者七名で除すと、一人当たりの金額は四八九二円(一円未満切捨て)となるから、右各被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が右各被告に対し右各請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((一)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、それぞれ、右各四八九二円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
9 番号19の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の4の1~3、二三、被告(20)T)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号19の会食は、平成八年三月二五日、「大東閣」において、兵庫県側からは、土木部道路建設課参事の被告(20)T(土木部道路建設課高速道路室に設置された山陽自動車道〔三木・小野〕、西神自動車道担当で、社土木事務所三木事業所に駐在)及び社土木事務所三木事務所主査の二名、その相手方として、兵庫県土地開発公社の東播磨事務所用地第一課長、同用地第二課長及び同用地第一副課長の三名、合計五名が出席して行われたものであり、番号19の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
相手方の兵庫県土地開発公社は、兵庫県のいわゆる外郭団体であり、その職員と兵庫県職員との人事交流が行われることも珍しいことではない。
(2)ア 兵庫県は、日本道路公団から受託し、兵庫県土地開発公社に再委託していた山陽自動車道神戸・三木間建設事業に係る用地買収につき、同公社の説明を聴取し、現状の課題の整理と対策、解決の方向を定めるとともに同公社の取組みの強化を求めるため、同公社との会議を平成八年三月二五日(月曜日)にもつこととした。また、右会議が長引くことも予想されたため、これに引き続き「大東閣」での会食を伴う会合を行うということも予定された。
イ 右会議開催の背景としては、おおむね以下のような事情があった。兵庫県では、県内一時間高速交通網の確立をめざし、県内高速道路基幹軸の整備を県政の重要課題とし、山陽自動車道をその東西基幹軸と位置付けていた。事業の実施主体は日本道路公団であるが、県は地元自治体として、当事業が円滑に進むよう推進体制を整え、地域に密着した地元調整や用地買収の受託など事業推進基盤の早期形成に努めていた。用地買収は、県が日本道路公団から受託し、兵庫県土地開発公社に再委託していた。
当時、山陽自動車道神戸・三木間建設事業は、平成八年度内の完成目標の時期が迫り、また、震災による迂回交通により県道三木三田線が非常に混雑していたことから、山陽自動車道の早期完成を図る必要があった。しかるに、用地取得に係る案件が相当残っており、早期解決が求められていた。
そのような状況の中、平成八年三月二二日(金曜日)、兵庫県土地開発公社の人事異動の内示があり、四月に同公社用地第一課長が兵庫県神戸土木事務所に転勤し(なお、同公社に勤務する前は、兵庫県の用地関係の職員として勤務していた。)、また、同公社の組織が変更されることも予想されたことから、県は、事務がうまく引き継がれるよう、三月中に、用地交渉等に当たった公社の課長等から説明を聴取し、現状の課題の整理と対策、解決の方向を定めるとともに同公社の取組みの強化を求めるため、急遽右会議を開くこととした。
ウ 右会議は、午後四時ころから、約二時間の予定で同公社東播磨事務所で前記五名及び同公社の担当職員数名の合計一〇名くらいが出席して始められた。
右会議では、収用案件、境界確定、土地所有者の相続調整、未登記処理等の未処理案件に関して、今までの取組内容、現状、問題点等についての同公社の説明をもとに、今後の取組み、対応策等について協議が行われた。個々の案件は複雑で困難なものが多く、会議が長引き、担当者レベルの協議は午後六時ころまでに終わったものの、それを踏まえた今後の進め方等についての課長、副課長レベルの協議は午後六時五〇分ころになっても終了しなかった。四月まで一週間しかなく、別途日を設定することはできなかったことから、引き続き「大東閣」で会食をしながら、協議した案件で特に難しい数件について協議を補充し、また、新年度に新しい組織の中でどのように買収作業を進めていくかなどについて更に協議、検討するとともに、同公社の取組みの強化を求めた(「大東閣」への連絡に関すること、相手方事務所における会議の終了時刻、「大東閣」における協議の内容等につき、被告(20)Tは必ずしも一貫した陳述記載(乙二三)ないし供述をしているわけではないが、「大東閣」において右認定に係るような内容の協議等がなされた旨の同被告の陳述記載・供述が虚偽であるとまでいうことはできない。)。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の19項記載のとおり、合計三万五五一九円である(一人当たり七一〇三円)。
(二) 右認定事実に基づき番号19の支出の違法性につき検討するに、日本道路公団から受託し、兵庫県土地開発公社に再委託していた山陽自動車道神戸・三木間建設事業に係る用地買収につき、同公社の説明を聴取し、現状の課題の整理と対策、解決の方向を定めるとともに同公社の取組みの強化を求める会合をもつことは、行政事務、事業の執行上必要がないとはいえず、また、直前の会議が長引いたこと等の事情に照らせば、相手方事務所における会議に引き続いて、会食を伴う会合を行うことも、違法とまではいえない(会議が長引くことが予想されたこと、日程調整が困難なこと等からすれば、あらかじめ会議に引き続いて会食を伴う会合を予定することも違法とまではいえない。)。
しかし、番号19の会食が行われたのが、多数の県民が被災した阪神・淡路大震災の発生(平成七年一月一七日)から一年二か月程度しか経っておらず、震災からの復興途中である時期であることに加え、会食の相手方である兵庫県土地開発公社は、兵庫県の外郭団体であり、その職員と兵庫県職員との人事交流が行われることも珍しいことではなく、相手方出席者のうちの同公社播磨事務所用地第一課長は、元は兵庫県職員で、その予定の転勤先は兵庫県神戸土木事務所であるというのであって、兵庫県職員に準ずる立場にあるとも考えられることにかんがみると、飲食代金等の支出のうち、消費税等の税金相当額を含めて一人当たり六〇〇〇円(合計三万円)までの部分は違法とはいえないが、これを超える部分(合計五五一九円)は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。
そうすると、番号19の支出のうち五五一九円分は、違法な支出といわざるを得ず、兵庫県は、右違法な支出によって右金額と同額の損害を被ったことになる。
(三) そこで、各被告の責任について検討する。
(1) 被告(4)Aは、右支出について債務負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)したものであるが(乙八の1・2)、右専決は裁量を逸脱してなされたものということができ、同被告にはこれにつき重大な過失があったというべきであるから、「当該職員」として兵庫県の被った五五一九円の損害を賠償すべき義務を負うといわなければならない。
(2) 副知事(土木部所管)の職にあった被告(2)Eは、右支出について、前示のとおり「当該職員」には当たるものの、現実に支出についての(代理)決裁をしたとは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(3) 番号19の支出についての支出負担行為及び支出命令に明らかに無効事由が存在するなどといった特段の事由の認められない本件においては、出納長の職にあった被告(3)Fは、出納事務局会計課係長が専決権限を行使するについて、指揮監督義務を故意又は重過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(4) 番号19の支出の違法性に関する判断は個別的な状況に関わることであり、兵庫県知事の職にあった被告(1)Dが会食の内容を知っていたなどの特段の事由の認められない本件においては、同被告は、被告(4)Aが一部違法な番号19の支出についての支出負担行為及び支出命令を専決(専決権者の代理決裁)するについて、指揮監督義務を故意又は過失により怠ったとまでは認められないから、「当該職員」として損害賠償責任を負うものではない。
(5) 土木道路建設課参事の被告(20)Tは、右会食に参加して飲食をしたものであり、その実際の飲食内容は同被告の意思に基づき決められたものと推認することができる。しかし、同被告は、前示のとおり当時支出負担行為の専決権者(の代理決裁権者)であったVの了承した金額の範囲内で飲食をしたものであるから、兵庫県が被告(20)Tに対し、損害賠償請求権を取得したということはできない。
しかしながら、被告(20)Tは、右会食に参加して飲食したのであるから、前記(二)において説示した違法な支出分のうち同被告が費消した金額相当額につき悪意の受益者と同視されるべき者として不当利得返還義務を負うといわなければならない(これに反する同被告の主張は採用することができない。)。そして、違法支出分五五一九円を参加者五名で除すと、一人当たりの金額は一一〇三円(一円未満切捨て)となるから、同被告は、兵庫県に対し、右金額相当額の不当利得返還義務を負うことになり、兵庫県が右各被告に対し右各請求権を行使しないことがその裁量の範囲内にあるとも認め難い((1)の被告(4)Aの損害賠償債務とは、右一一〇三円の範囲で不真正連帯債務の関係となる。)。
10 番号20の支出について
(一) 前記第二の二の争いのない事実等に、証拠(乙一九の11の1~3、二〇、被告(12)L)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 番号20の会食は、平成八年三月二八日、「豊福」花隈店において、兵庫県側からは、事務担当の土木部空港整備副課長の被告(19)S、技術担当の土木部空港整備副課長の被告(11)J、土木部空港整備課長補佐の被告(12)L、土木部空港整備課長補佐の被告(21)U及び土木部空港整備課主任の五名、その相手方として、株式会社日本エアシステム経営企画室事業管理部課長及び日本エアコミューター株式会社企画室次長の二名、合計七名が出席して行われたものであり、番号20の支出は、その際の飲食代金等の費用を、兵庫県一般会計から需用費(食糧費)として支出したものである。
(2)ア 兵庫県は、株式会社日本エアシステム及び日本エアコミューター株式会社に対し、但馬空港について、但馬路線(但馬~大阪)の一日二便による運航体制維持の要望を説明し、両社においても同運航体制維持の方針を決定してもらうよう働きかけ、協議するため、会議を平成八年三月二八日に設定した。
イ 右会議開催の背景としては、おおむね以下のような事情があった。
但馬路線(但馬~大阪間)は、平成六年の但馬空港開港当初は一日一便の運航であったが、平成七年一〇月に二便化が実現した。しかし、利用率、就航率が予想を下回ったため、運航会社である日本エアコミューター株式会社及びその親会社である株式会社日本エアシステムからは、二便体制を打ち切りたい旨の話も出ていた。新年度になると、早い時期から日本エアコミューター株式会社が運航方針を検討するため、それまでの三月中に、両社に対して県、地元の一日二便の運航体制維持の要望を説明し、双方で利用率、就航率、採算性の確保対策等について、事務、技術両面から緊急に協議する必要があった。
ウ 右会議に際して、相手方である株式会社日本エアシステムの経営企画室事業管理部課長は東京から、日本エアコミューター株式会社の企画室次長は鹿児島から来庁するため、午後三時半ころからの開始となった。会議場所は空港整備課の事務室で、出席者は前記七名であった。
右会議では、但馬路線の利用率、就航率、採算性の確保対策等について協議し、県は、両社に対し但馬路線の運航体制の維持を強く要望した。実務的な協議をし、内容が複雑であったことから、午後五時半ころになっても協議が終了しなかったので、会議をいったん終わらせた。そして、午後六時ころから七時ころまで、「豊福」で会食をしながら要望をし、協議をした。なお、株式会社日本エアシステムの経営企画室事業管理部課長のスケジュールの都合上、午後七時ころまでには協議を終了させなければならなかったが、このことは、会食を行うことを決めた時点で既に話に出ていた。
エ その後、但馬路線の一日二便の運航体制は維持された。
(3) 右会食における飲食等の価格は、別表2「飲食代金等の内訳」の20項記載のとおり、合計五万〇九八五円である(一人当たり七二八三円)。
(二) 右認定事実に基づき番号20の支出の違法性につき検討するに、右認定に係る「豊福」での会食の時間に照らせば、空港整備課の事務室での会議を継続していたとしても、その終了までにさほど時間はかからなかったものと考えられ、これに、相手方(の一人)のスケジュールの都合上、午後七時ころまでには協議を終了させなければならないことが、会食を行うことを決めた時点で既に話に出ていたこと、空港整備課の事務室での会議をいったん終わらせた後「豊福」での会食を始めるまでに、店の選定、事前伺い等の諸手続、移動等のために、ある程度の時間がかかることは明らかであり(なお、被告(12)Lは、この会食を行うこと自体について被告(19)Sと相談し、総務課と事前協議をしてその了解を取り付け、会食場所たる店を選定して料理を注文した旨陳述する[乙二〇]。)、その分協議時間は少なくなること、被告らは右会食は接遇を兼ねたものである旨主張し、被告(12)Lもこれに沿う供述をしていることを考慮すると、番号20の会食については、協議を続ける上で夕食を提供する必要があったから事務室での会議をいったん打ち切って「豊福」での会食を設定したというよりも、むしろ接遇を行うために事務室での会議をいったん打ち切ったものとも考えられる。しかしながら、県から相手方に重要な要望を行うという会議の趣旨・内容及びこれに引き続く会食においてもなお実際に協議が続けられていることに照らせば、相手方が協議に応じてくれることに対する儀礼の趣旨の接遇を兼ねて会食の場を設け、その際右認定に係る程度の食事等を提供するのも、食糧費の対象として、なお社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものとまでいうことはできない。
(三) したがって、番号20の支出に関しては、被告ら(被告(1)D、同(2)E、同(3)F、同(4)A、同(11)J、同(12)L、同(19)S及び同(21)U)は、その余の点について判断するまでもなく、損害賠償ないし不当利得返還の責任を負わないことが明らかである。
11 番号2、5、6、7、8、9、10、13、17及び18の各支出について
番号2、5、6、7、8、9、10、13、17及び18の各支出については、前記第二の二5(二)記載のとおり、被告(4)Aは、平成九年四月二三日、兵庫県に対し、支出金額相当額計五四万四七三三円及び各支出日から返還日までの利息(母利五パーセント)相当額計二万四七二一円の合計五六万九四五四円を支払ったのであるから、仮に兵庫県の被告らに対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が発生したとしても、現時点では、右各支出のいずれについても、損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権は右支払いにより消滅したというべきであり、その結果、兵庫県は右各請求権を有しないものといわなければならない。
12 まとめ
以上のとおり、本件各支出のうち、番号1、3、4、11、12、14、15、16、19の各支出は一部違法(但し、番号4の支出は全部違法)であり、それぞれの箇所において説示した各被告が損害賠償又は不当利得返還の責任を負うべきものであるが、番号20の支出は違法とはいえず、また、その余の各支出に関しては兵庫県に損害・損失はない。
原告ら及び被告らの各主張は、以上の説示に反する限度でいずれも採用することができない。
第五結論
よって、被告(1)D、被告(2)E、被告(3)F、被告(15)O及び被告(21)Uに対する各請求はいずれも理由がないので棄却することとし、被告(8)Hに対する請求(請求の趣旨第四項)は理由があるのでこれを認容することとし、その余の被告らに対する各請求は主文掲記の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条及び六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 中村哲)
裁判官大竹貴は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 水野武